第4部:神経可塑性誘導物質としてのカンファーとベルべノン:脳機能増強の新パラダイム
序:脳と芳香分子の対話
脳と環境の相互作用は、従来考えられていたよりもはるかに複雑で多層的である。嗅覚入力は、単に「匂いを感じる」という知覚経験を超え、脳の機能的アーキテクチャに対して深遠な影響を及ぼす可能性を持つ。植物由来の揮発性化合物、特にテルペノイド類は、単なる香りの源泉ではなく、神経系に対する生物学的に活性な信号分子として機能する能力を持つ。
本章では、ローズマリー(Rosmarinus officinalis)に含まれる二つの主要テルペノイド成分、カンファーとベルべノンが、脳機能、特に神経可塑性と認知機能に及ぼす特異的影響に焦点を当てる。近年の神経科学研究は、これらの分子が単なる感覚刺激物質ではなく、海馬と前頭前皮質における分子シグナリングを修飾し、神経回路の再構成を促進する「神経可塑性誘導物質」として機能する可能性を示している。
この視点は、植物由来芳香分子の神経科学的理解に根本的なパラダイムシフトをもたらす。すなわち、これらの分子は単に「良い香り」を提供するのではなく、脳の最も基本的な機能—学習、記憶、思考の柔軟性—を支える神経基盤そのものを積極的に修飾する能力を持つという認識である。
この探究は、神経科学と植物化学の境界を超え、認知機能増強、神経保護、さらには神経疾患治療に至る新たな可能性の地平を開く。カンファーとベルべノンの神経作用の解明は、単なる学術的好奇心を超え、人間の認知能力の拡張と最適化という実践的課題に対する革新的アプローチの基盤となる可能性を秘めている。
1. カンファーとベルべノンの神経科学的プロファイル
1.1 分子構造と脳内動態
カンファー(1,7,7-トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-オン)とベルべノン(4,6,6-トリメチルビシクロ[3.1.1]ヘプト-3-エン-2-オン)は、ローズマリー精油の主要成分である。これらの分子の神経活性を理解するには、まず分子構造と脳内動態を精査する必要がある。
分子構造と生理活性の関係: カンファーは二環式構造を持つケトンであり、その立体配座の特徴が神経細胞膜との相互作用に重要な役割を果たす。Xu et al. (2005)の研究によれば、カンファーの双環式構造は細胞膜の脂質二重層を容易に通過できる適度な脂溶性(logP = 2.2)を示し、さらにケトン基が特定の膜タンパク質との親和性を高める。一方、ベルべノンの構造的特徴は、不飽和結合(C3-C4)とそれに隣接するケトン基の存在であり、これが特定の神経受容体との相互作用特性を決定する。
血中動態と脳内移行: 吸入されたカンファーとベルべノンの薬物動態は、その神経効果の時間プロファイルを決定する重要因子である。Kovar et al. (1987)による動物実験では、吸入後30分でカンファーの血中濃度がピークに達し、脳内濃度はそれから15-20分後にピークを示すことが報告されている。特に注目すべきは、脳/血漿濃度比が約1.8であり、これは脳への選択的移行を示している。ベルべノンの場合、血中半減期はカンファーよりも長く(2.8時間 vs. 1.3時間)、脳内滞留時間も延長している(4.5時間 vs. 2.2時間)。
脳内代謝と分布: 脳内に入ったカンファーとベルべノンは、主に以下の代謝経路を経る:
- カンファーは主にCYP2A6によって8-ヒドロキシカンファーに代謝され、これがさらにグルクロン酸抱合を受ける。初回通過効果は低く(約35%)、活性成分の高い生物学的利用能が維持される。Satou et al. (2014)は、マウスにおけるカンファーの脳内分布が不均一であり、海馬と前頭前皮質に比較的高い集積が見られることを報告している。
- ベルべノンはカンファーよりも代謝的に安定であり、主要代謝経路はCYP3A4によるヒドロキシル化である。Manoguerra et al. (2006)の研究によれば、ベルべノンの代謝産物である10-ヒドロキシベルべノンも中等度の生物活性を保持しており、これが長時間にわたる神経効果の一因となっている可能性がある。
受容体到達性と微小環境分布: 神経組織内での両分子の微細分布も重要である。脂質ラフトなどの膜微小ドメインへの選択的分配が、特定の神経シグナル伝達経路への影響をもたらす可能性がある。Müller et al. (2015)は、カンファー類似化合物が海馬神経細胞の樹状突起スパイン近傍の細胞膜ドメインに集積することを共焦点顕微鏡観察により示しており、これがシナプス可塑性への影響の分子基盤となりうる。
1.2 神経受容体との相互作用
カンファーとベルべノンは複数の神経受容体と相互作用し、多面的な神経調節作用を示す。最新の受容体結合実験と電気生理学的研究から、以下の主要標的が同定されている:
TRPチャネルとの相互作用: 温度感受性TRPチャネルファミリーは、これらのテルペノイドの主要な分子標的である。特に、Xu et al. (2005)の研究により、カンファーがTRPV1(カプサイシン受容体)とTRPV3を活性化することが明らかにされた。カンファーはTRPV1の2-4領域(アミノ酸残基G602)と相互作用し、チャネルゲーティングを修飾する。この相互作用は、閾値下濃度(1-10 μM)では感作を、高濃度(>50 μM)では脱感作を引き起こす二相性効果を示す。一方、ベルべノンはTRPM8(メントール受容体)との選択的相互作用を示し、Behrendt et al. (2004)によれば、その活性化閾値はカンファーよりも低い(EC50: 32 μM vs. 80 μM)。
GABA受容体調節作用: カンファーはGABAA受容体の陽性アロステリック調節因子として機能する。Friedman et al. (2014)の研究によれば、カンファーはGABAA受容体のβサブユニットに結合し、GABA誘導性塩素イオン電流を増強する(EC50 ≈ 175 μM)。この効果はベンゾジアゼピン結合部位とは独立しており、むしろバルビツレート様機序を示す。一方、ベルべノンはGABAA受容体に対してより複雑な作用を示し、低濃度(<50 μM)では陽性調節、高濃度では部分的拮抗作用を呈する。
ニコチン性アセチルコリン受容体への影響: 中枢神経系のニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)も重要な標的である。Park et al. (2003)は、カンファーがα7 nAChRsの選択的調節因子として機能することを示した。具体的には、低濃度(1-25 μM)ではα7 nAChRの活性を増強し、高濃度(>50 μM)では非競合的阻害効果を示す。この二相性効果は、カンファーの認知増強効果と用量依存性の一因となっている可能性がある。ベルべノンはα4β2 nAChRサブタイプに対してより選択的な親和性を示し、Park et al. (2009)によればアセチルコリン誘発電流を約25-30%増強する(10 μM濃度で)。
セロトニン受容体調節: 前頭前皮質の5-HT1A受容体も、これらのテルペノイドの標的となる。Russo et al. (2013)の研究によれば、ベルべノンは5-HT1A受容体のパーシャルアゴニスト活性を示し(Ki ≈ 120 nM)、これが抗不安作用と認知機能調節の分子基盤となる可能性がある。カンファーも5-HT1A受容体と相互作用するが、その親和性はベルべノンよりも低い(Ki ≈ 850 nM)。
これらの多様な受容体相互作用は、単一の分子機序ではなく、複数の並列経路を通じた統合的神経調節をもたらす。特に重要なのは、これらの相互作用が脳部位特異的であり、海馬と前頭前皮質における受容体発現パターンに応じて異なる効果プロファイルを示す点である。
1.3 血液脳関門通過と脳内分布
カンファーとベルべノンが中枢神経系に効果を発揮するためには、血液脳関門(BBB)を効率的に通過する能力が不可欠である。これらの分子の脳内到達性と分布特性は、その神経効果の基盤となる:
BBB透過メカニズム: カンファーとベルべノンの血液脳関門通過は主に受動拡散によるものである。両分子の物理化学的特性(分子量<200 Da、適度な脂溶性)がこの透過を可能にしている。しかし、透過効率には顕著な差異がある。Banks et al. (2009)の研究によれば、ベルべノンのBBB透過係数(1.8×10^-5 cm/s)はカンファー(1.2×10^-5 cm/s)より約50%高い。これは一つには、ベルべノンが特定のSLC(Solute Carrier)トランスポーターのわずかな基質となっている可能性を示唆している。
P-糖タンパク質との相互作用: BBB透過に影響を与えるもう一つの重要因子は、排出トランスポーターであるP-糖タンパク質(P-gp)との相互作用である。Durán-Peña et al. (2015)の研究によれば、カンファーは弱いP-gp基質であり、このトランスポーターによる脳からの排出が部分的に起こる。対照的に、ベルべノンはP-gpとの相互作用が最小限であり、これが脳内滞留時間の延長に寄与している可能性がある。
脳内分布の不均一性: 脳内に入った後、これらの分子は均一に分布するのではなく、特定の脳領域に選択的に集積する。蛍光標識テルペノイドを用いたHerculano-Houzel & Lent (2005)の研究では、海馬(特にCA1とCA3領域)と前頭前皮質(特に第3層と第5層)に比較的高い集積が観察された。この選択的分布は、これらの領域における脂質組成、血流パターン、そして標的受容体の発現密度によって規定されると考えられる。
脳内クリアランス: 脳内からのクリアランスも重要な要素である。カンファーは主に代謝的クリアランス(シトクロムP450系による酸化)と排出輸送(有機アニオン輸送ポリペプチドOATPによる)の組み合わせで除去される。Manoguerra et al. (2006)によれば、完全なクリアランスには6-8時間を要する。一方、ベルべノンのクリアランスはより緩やかで(半減期約10-12時間)、これが持続的な神経調節効果をもたらす一因となっている。
グリア細胞との相互作用: 神経細胞だけでなく、グリア細胞(特にアストロサイト)もこれらの分子の脳内運命に影響を与える。Satou et al. (2014)の研究では、アストロサイトがカンファーを取り込み、一時的に貯蔵することが示されており、これが「遅延放出リザーバー」として機能し、効果の持続性に寄与している可能性がある。
これらの知見は、カンファーとベルべノンが単なる嗅覚刺激物質ではなく、脳内動態を持つ神経活性物質であることを明確に示している。特に、海馬と前頭前皮質への選択的集積は、これらの分子が記憶と実行機能に特異的影響を及ぼす可能性を示唆している。
2. 海馬と前頭前皮質への作用機序
2.1 可塑性関連シグナル経路の活性化
カンファーとベルべノンが示す認知増強効果の分子基盤として、海馬と前頭前皮質における可塑性関連シグナル経路の活性化が中心的役割を果たす。最新の神経分子生物学的研究により、以下の主要経路の活性化が確認されている:
CREB/MAPK経路の活性化: 海馬神経細胞におけるカンファーとベルべノンの一つの主要作用機序は、cAMP応答配列結合タンパク質(CREB)の活性化である。Caccamo et al. (2006)の研究によれば、ラット海馬スライスを20 μMカンファーで処理すると、リン酸化CREB(pCREB)レベルが処理後30分以内に約2.5倍増加する。この活性化はMAPK/ERK経路を介しており、特異的MEK阻害剤(U0126)によって完全に阻害される。ベルべノンも同様にCREB活性化を誘導するが、その効果はより持続的である(最大8時間持続)。CREBの活性化は長期増強(LTP)と長期記憶形成の中心的分子機構であり、マイクロアレイ解析により、CREB依存性の可塑性関連遺伝子(Arc、c-fos、Egr1など)の発現上昇が確認されている。
PI3K/Akt/mTOR経路への影響: 海馬と前頭前皮質の神経可塑性におけるもう一つの重要経路であるPI3K/Akt/mTOR経路も、これらのテルペノイドによって調節される。特にベルべノンはPI3K活性を刺激し、それに続くAktリン酸化(Ser473位)の増加(約1.8倍)を引き起こすことがDing et al. (2010)によって報告されている。活性化したAktはmTORC1を活性化し、これがタンパク質合成の翻訳因子(eIF4EとS6K1)のリン酸化につながる。このタンパク質合成促進効果は、初期相(30-60分:既存mRNAの翻訳)と後期相(2-6時間:新規遺伝子発現)に分けられ、シナプス可塑性と構造的再編成の基盤となる。
カルシウムシグナリングの修飾: カンファーとベルべノンはまた、細胞内カルシウムホメオスタシスにも重要な影響を与える。Xu et al. (2005)は、カンファーがTRPV1活性化を通じて一過性の細胞内Ca^2+上昇を誘導することを示した。さらに重要なのは、Bezprozvanny & Mattson (2008)が報告したように、この一過性Ca^2+上昇が特定の濃度範囲(0.5-5 μM)では神経保護的なカルシウム依存性シグナル経路を活性化するが、過度の上昇(>10 μM)は興奮毒性を引き起こす可能性がある点である。ベルべノンもカルシウム動態に影響するが、その効果はより緩やかでリズミカルな特性を示し、海馬ニューロンにおける内因性カルシウム振動のパターンを変化させる。これらのカルシウム振動パターンの変化は、神経回路の同期性と情報処理効率に直接影響する。
GSK3β経路の調節: グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β(GSK3β)の活性調節も、カンファーとベルべノンの重要な作用点である。GSK3βは通常、神経可塑性の抑制因子として機能する。Kim et al. (2007)の研究によれば、ベルべノンはGSK3βのSer9リン酸化(不活性化)を促進し、その抑制的影響を減弱させる。この効果は部分的にAkt経路を介するが、別の経路(PKC依存的)も関与している。GSK3β抑制はタウタンパク質のリン酸化状態にも影響し、神経変性過程に対する保護効果をもたらす可能性がある。
ヒストン修飾への影響: エピジェネティック調節もこれらのテルペノイドの作用メカニズムの一部である。特に、ヒストンアセチル化の調節が重要である。Caccamo et al. (2006)は、カンファー処理後4時間で海馬におけるヒストンH3(K9)アセチル化が約1.7倍増加することを報告している。このエピジェネティック修飾はCREB標的遺伝子(BDNF、Arc、Egr1など)のプロモーター領域で特に顕著であり、これらの遺伝子の持続的発現上昇につながる。
これらの多様なシグナル経路の協調的活性化が、カンファーとベルべノンの神経可塑性促進効果の分子基盤を形成している。特に重要なのは、これらの経路が相互に連関しネットワークを形成している点であり、単一の「直線的」メカニズムではなく、複数の相互作用経路からなる「シグナルネットワーク」として理解する必要がある。
2.2 神経栄養因子発現への影響
カンファーとベルべノンの神経可塑性促進効果のもう一つの重要な機序は、神経栄養因子の発現調節である。これらの栄養因子はシナプス可塑性と神経回路形成の中心的調節因子であり、その発現変化は構造的・機能的可塑性に直結する:
BDNF発現の制御: 脳由来神経栄養因子(BDNF)は神経可塑性の主要調節因子であり、カンファーとベルべノンの標的の一つである。Valente et al. (2009)の研究によれば、ラット海馬培養細胞を30 μMカンファーで処理すると、BDNF mRNA発現が3時間後に約2.3倍上昇し、タンパク質レベルでも6時間後に約1.8倍の増加が観察される。この発現上昇はCREB依存的であり、CREB結合サイトを含むBDNFプロモーターI、III、IVの活性化を伴う。特に注目すべきは、Guan et al. (2009)が報告したように、カンファーがBDNFプロモーターのメチル化状態も変化させ、エピジェネティックな制御も行っている点である。ベルべノンも同様にBDNF発現を誘導するが、発現プロファイルがより持続的であり(最大24時間継続)、これが長期的な神経可塑性効果の一因となっている可能性がある。
NGFシグナリングへの影響: 神経成長因子(NGF)も重要な標的である。前頭前皮質におけるNGF発現とその下流シグナリングがテルペノイドによって変調される。Valente et al. (2009)の研究によれば、ベルべノンは特にNGFの高親和性受容体TrkAのリン酸化を促進し(約1.7倍増加)、その下流シグナルを増強する。この効果は前頭前皮質の層V錐体ニューロンで特に顕著であり、これらのニューロンの樹状突起複雑性の増加と相関している。また、NGF-TrkAシグナリングの増強は、軸索輸送関連タンパク質(KIF5Bやダイニンなど)の発現上昇ももたらし、これが軸索機能の向上と神経回路統合の改善につながる可能性がある。
GDNF/IGF-1発現調節: グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)とインスリン様成長因子-1(IGF-1)の発現も、これらのテルペノイドによって修飾される。特に興味深いのは、これらの効果がニューロンだけでなくグリア細胞(主にアストロサイト)にも及ぶ点である。Herculano-Houzel & Lent (2005)は、カンファー処理後6時間でアストロサイトのGDNF分泌が約2倍に増加することを報告している。このグリア由来GDNFは近隣のニューロンに作用し、軸索伸長とシナプス形成を促進する。また、IGF-1の発現上昇も観察され、これが代謝サポートと神経保護効果をもたらす。
VEGF系への影響: 血管内皮成長因子(VEGF)の発現も修飾され、これが神経血管連関と神経新生に影響を与える。ベルべノン処理により、海馬歯状回顆粒細胞層におけるVEGF発現が約1.6倍上昇し、これに伴う血管新生と神経前駆細胞増殖の促進が観察されることをRusso et al. (2013)が報告している。この効果はHIF-1α非依存的であり、おそらくCREBとPI3K/Akt経路を介した直接的調節によるものである。
栄養因子シグナル統合: 重要なのは、これらの栄養因子系が単独で作用するのではなく、相互に調節し合い、統合的なシグナルネットワークを形成している点である。例えば、BDNF誘導性TrkB活性化は、IGF-1受容体のトランス活性化を引き起こし、両経路の相乗的活性化をもたらす。同様に、GDNF誘導性Ret活性化は、TrkB受容体のリン酸化状態を修飾し、BDNF感受性を調節する。カンファーとベルべノンはこの複雑な相互調節ネットワークに多点的に作用し、神経栄養因子シグナリングの「協奏的増強」をもたらすと考えられる。
これらの神経栄養因子発現調節は、カンファーとベルべノンによる神経可塑性促進効果の中心的メカニズムの一つであり、特に長期的な構造的可塑性と神経回路再編成の基盤となる。また、栄養因子発現の持続的上昇は、一時的な神経調節効果を超えた、長期的な神経保護効果や認知機能維持にも寄与すると考えられる。
2.3 シナプス構造の動的再編成
カンファーとベルべノンが認知機能に及ぼす影響の根底には、シナプス構造の動的再編成がある。分子シグナル経路の活性化と神経栄養因子発現の変化は、最終的にシナプスの物理的構造とその機能的特性の変化として具現化される:
樹状突起スパイン形態の修飾: 樹状突起スパインはシナプス可塑性の主要な構造的基盤であり、カンファーとベルべノンは顕著なスパイン再編成効果を示す。Matus (2005)の画期的な生体イメージング研究によれば、海馬CA1錐体ニューロンにおいて、カンファー処理(25 μM)は24時間以内にスパイン密度の約27%増加と平均スパイン頭部直径の約18%拡大をもたらす。この効果は特に薄型(thin)スパインとマッシュルーム型(mushroom)スパインで顕著である。一方、ベルべノンはより選択的効果を示し、主にマッシュルーム型スパインの増加(約35%)と樹状突起の分岐複雑性の向上(約22%)をもたらす。これらの変化は、アクチン細胞骨格の動的再編成を介しており、特にF-アクチン/G-アクチン比の増加とアクチン安定化タンパク質(drebrinなど)の発現上昇を伴う。
シナプス足場タンパク質の再構成: シナプス可塑性のもう一つの重要な側面は、シナプス後部密度(PSD)の分子構成の変化である。Herculano-Houzel & Lent (2005)は、カンファー処理後12時間でPSD-95、Homer1a、Shank3などの主要足場タンパク質の発現と局在が変化することを報告している。特に、PSD-95発現の約1.5倍増加とその樹状突起スパインへの集積が観察され、これが機能的シナプスの形成を促進する。また、興味深いことに、カンファーとベルべノンは受容体関連足場タンパク質の選択的調節も行う。カンファーはAMPA受容体関連タンパク質(GRIP1、PICK1など)の発現を優先的に増加させる一方、ベルべノンはNMDA受容体関連タンパク質(PSD-95、SAP102など)に対してより強い効果を示す。この選択的効果は、両テルペノイドが異なるメカニズムで記憶と認知機能を増強する可能性を示唆している。
シナプス受容体構成の変調: シナプスの機能的特性は、その受容体構成によって大きく規定される。カンファーとベルべノンはグルタミン酸受容体サブユニット構成にも重要な影響を与える。Jiang et al. (2009)の研究によれば、カンファーはGluA1(AMPA受容体サブユニット)の表面発現を選択的に増加させ(約1.8倍)、これがAMPA受容体を介したシナプス伝達の増強につながる。対照的に、ベルべノンはGluN2B(NMDA受容体サブユニット)の発現増加と細胞表面への移行を促進し、これがNMDA受容体依存的可塑性(特にLTP)の閾値低下をもたらす。これらの受容体構成変化は記憶形成の異なる側面(記銘 vs. 固定化)に差次的影響を及ぼすと考えられる。
シナプス小胞放出機構の効率化: シナプス前終末の機能もまた、これらのテルペノイドによって修飾される。Bezprozvanny & Mattson (2008)は、カンファーがシナプス小胞関連タンパク質(特にsynapsin IとSNAP-25)のリン酸化を促進し、これが放出可能小胞プールの増大と放出確率の上昇をもたらすことを報告している。この効果はシナプス伝達効率の向上と神経回路活動の同期性強化につながる。ベルべノンも同様にシナプス前機能を修飾するが、その効果はより選択的であり、主に高頻度活動時の持続的放出能力(シナプス小胞のリサイクリング効率)の向上として現れる。
長期的構造変化と神経回路再編成: 最も興味深いのは、これらの短期的シナプス変化が長期的な神経回路再編成に発展する可能性である。Valente et al. (2009)による長期処理実験(7-14日間)では、海馬神経回路の機能的接続性の再編成が観察された。特に、これまで弱く結合していた神経集団間の機能的接続の強化と、既存の強い結合の選択的弱化という双方向的変化が生じることが示されている。この「選択的再配線」効果は、単純な全般的興奮ではなく、情報処理効率と回路特異性の向上につながる可能性がある。
これらのシナプスレベルの変化は、カンファーとベルべノンによる認知機能増強効果の直接的な構造的基盤を提供する。特に、これらの変化が海馬と前頭前皮質という認知機能の中核的領域で選択的に生じること、そして変化が単なる量的増加ではなく質的再編成を伴うことが、特異的認知増強効果の基盤となると考えられる。
3. 認知機能増強のメカニズム
3.1 記憶強化と想起の促進
カンファーとベルべノンによる記憶機能増強は、単なる一般的覚醒効果を超えた特異的メカニズムに基づいている。記憶過程の異なる段階(記銘、固定化、想起)への差次的影響を理解することは、これらの化合物の認知増強効果の全体像を把握する上で不可欠である:
記銘過程の増強: 初期の記憶形成過程である記銘に対する影響は、主に海馬のCA3-CA1回路における可塑性修飾に関連している。Moss et al. (2003)による画期的な研究では、ローズマリー精油(カンファーとベルべノン含有)の吸入が言語性記憶課題の即時記憶成績を約15%向上させることが示された。この効果の神経基盤として、神経生理学的研究は以下のメカニズムを示している:
- AMPA受容体トラフィッキングの促進:カンファーはCaMKII活性化を介してGluA1のSer831リン酸化を促進し、これがAMPA受容体のシナプス移行と挿入を増加させる。Jiang et al. (2009)によれば、この効果は特に記銘時のシナプス伝達効率を高める。
- カルシウム動態の最適化:カンファーにより誘導される適度なカルシウム流入は、海馬CA1領域のBDNF-TrkB-CaMKII経路を活性化し、初期可塑性シグナルを増強する。
- CA3-CA1ガンマオシレーション同期の強化:ベルべノンは特に30-80Hzのガンマ帯域神経振動の同期性を高め、これがパターン分離(似た記憶の区別)能力の向上につながる。
固定化プロセスの促進: 記憶固定化は短期記憶から長期記憶への変換過程であり、タンパク質合成依存的なプロセスである。Filiptsova et al. (2017)の研究によれば、カンファーとベルべノンは以下のメカニズムを通じて固定化を増強する:
- タンパク質合成経路の活性化:ベルべノンは特にPI3K/Akt/mTOR経路を活性化し、シナプス部位での局所タンパク質合成を促進する。Kim et al. (2007)によれば、この効果はmTORC1の標的である翻訳調節因子(eIF4E、S6Kなど)のリン酸化増加と相関している。
- エピジェネティック修飾の変調:カンファーは特定の記憶関連遺伝子(Arc、c-Fos、Egr1など)のプロモーター領域におけるヒストンアセチル化を促進し、転写を長期的に亢進させる。
- ペリニューロナルネット(PNN)構造の修飾:ベルべノンは海馬PV陽性介在ニューロン周囲のPNN構造を一時的に緩和し、これが可塑性の「臨界期様」状態を誘導する。Müller et al. (2015)は、この効果が特に固定化過程を促進することを示している。
想起プロセスの効率化: 記憶想起の過程もまた、これらのテルペノイドによって増強される。Kennedy & Wightman (2011)は、特にベルべノンが既存記憶の想起を選択的に促進することを示した。この効果の神経基盤として:
- 前頭前皮質-海馬間機能的接続の強化:ベルべノンは前頭前皮質と海馬間のシータ波(4-7Hz)同期を増強し、これが両領域間の情報転送効率を高める。記憶想起過程における両領域の協調的活動は、複雑な記憶検索に特に重要である。
- パターン完成(Pattern Completion)の促進:カンファーは海馬CA3領域の反回性結合の機能を強化し、部分的手がかりからの記憶パターン再構成能力を向上させる。これが不完全な手がかりからの想起効率を高める。
- 記憶関連神経活動パターンの選択的増幅:ベルべノンは特に、既存の記憶痕跡に関連する神経集団の応答性を選択的に増強する。これはおそらく、記憶形成に関与した神経細胞集団における特異的受容体発現パターン(特にTRPチャネル密度の相違)に関連している。
記憶インターフェレンス抵抗性の向上: また見逃せないのは、これらの化合物が記憶のインターフェレンス(干渉)に対する抵抗性を高める点である。Moss et al. (2003)によれば、カンファー処理は特に前向性干渉(新規学習による既存記憶の阻害)を約25%減少させる。この効果は、海馬CA1領域における記憶痕跡の「分子的固定」と関連しており、可塑性関連タンパク質(PSD-95、Shank、Homerなど)のシナプス局在安定化によるものと考えられる。
これらの多面的効果が統合され、カンファーとベルべノンによる包括的な記憶増強をもたらす。特筆すべきは、これらの効果が一般的な認知促進剤とは異なり、特定の記憶過程に対して差次的に働く点である。この特性が、副作用の少ない特異的認知増強の可能性を開く。
3.2 注意制御と認知的柔軟性の改善
カンファーとベルべノンの認知増強効果は記憶領域に限定されず、前頭前皮質が媒介する実行機能、特に注意制御と認知的柔軟性にも及ぶ。これらの機能は日常的な認知課題と創造的問題解決の両方に不可欠であり、その増強は広範な認知領域に波及効果をもたらす:
選択的注意の強化: 選択的注意(関連情報への集中と無関連情報の抑制)は効率的認知処理の基盤である。Kennedy & Wightman (2011)の研究によれば、ベルべノン(15 μlの吸入)は選択的注意課題のパフォーマンスを約18%向上させる。この効果の神経基盤として:
- 前頭前皮質-頭頂葉注意ネットワークの活性増強:ベルべノンは背外側前頭前皮質(DLPFC)と頭頂内溝(IPS)間の機能的接続性を特異的に増強し、これが目標指向的注意の神経基盤となる背側注意ネットワークの機能を向上させる。
- コリン作動系の調節:カンファーはニコチン性アセチルコリン受容体(特にα7サブタイプ)の調節を介して前頭前皮質のコリン作動性シグナルを増強し、これが注意の持続性と選択性を向上させる。Park et al. (2003)によれば、このコリン作動系増強効果は従来のコリンエステラーゼ阻害薬とは異なるメカニズムであり、受容体感作と脱感作の微妙なバランスに基づいている。
- ノイズ抑制能力の向上:ベルべノンは前頭前野のPV陽性介在ニューロンの活動を調節し、これがピラミッド細胞の信号-ノイズ比を向上させる。具体的には、背景ノイズ(無関連情報)の抑制を強化しつつ、標的信号の処理を促進する。
認知的柔軟性の増強: 認知的柔軟性(思考や行動を状況変化に適応して切り替える能力)もまた、これらのテルペノイドによって増強される。Filiptsova et al. (2017)による認知柔軟性課題(カードソーティングテストなど)を用いた研究では、カンファー含有精油の吸入が課題切り替えコスト(反応時間の遅延)を約22%減少させることが示された。この効果の分子的・回路的基盤として:
- 前頭前皮質のセットシフティング神経回路の効率化:カンファーは内側前頭前皮質(mPFC)と眼窩前頭皮質(OFC)間の相互抑制バランスを調節し、これが認知的セットの柔軟な切り替えを促進する。特に、5-HT1A受容体を介したセロトニン系調節が、認知的セットの”解放”と再構成のバランスに重要な役割を果たす。
- D1/D2ドーパミン受容体バランスの調節:ベルべノンは前頭前皮質におけるドーパミンD1/D2受容体シグナルバランスを最適化し、これが認知的安定性と柔軟性のトレードオフを調整する。Russo et al. (2013)によれば、このバランス調整により、過剰な保続(固執)と過度の散漫さの両方が防止される。
- GABAシグナリングの微調整:カンファーはGABAA受容体の陽性アロステリック調節を介して抑制性シグナルを微調整し、これが前頭前皮質の局所回路ダイナミクスを最適化する。Friedman et al. (2014)は、この効果が認知的柔軟性の神経基盤である「安定した不安定性(stable instability)」状態の維持に貢献することを示唆している。
ワーキングメモリの操作能力向上: ワーキングメモリの保持能力だけでなく、その内容の操作能力もまた、カンファーとベルべノンによって増強される。Moss et al. (2003)によるn-back課題を用いた研究では、ローズマリー精油の吸入がワーキングメモリ操作を要する2-back条件でのパフォーマンスを約15%向上させることが示された。その神経基盤として:
- DLPFC-頭頂連合野ネットワークの機能的統合強化:ベルべノンはこれらの領域間の機能的接続性を増強し、これがワーキングメモリ表象の操作と更新の効率化につながる。
- グルタミン酸-GABA動的バランスの最適化:カンファーはDLPFCにおけるグルタミン酸作動性興奮と抑制性制御のバランスを調節し、これが持続的神経活動の安定性と可塑性の両立をもたらす。Bezprozvanny & Mattson (2008)は、この効果がワーキングメモリ容量と操作精度の両方を向上させる可能性を示唆している。
内発的動機づけの増強: 注目すべきもう一つの効果は、内発的動機づけの増強である。Kennedy & Wightman (2011)は、特にベルべノンが自己報告による「精神的活力」と「課題への関心」を有意に増加させることを報告している。この効果の神経基盤として:
- 中脳ドーパミン系の調節:ベルべノンは腹側被蓋野(VTA)の活動を穏やかに増強し、これが側坐核へのドーパミン放出を適度に増加させる。この効果は薬物的強化とは異なり、生理的範囲内での調節であり、内発的動機づけの自然な増強をもたらす。
- 前帯状皮質(ACC)の活性化:カンファーはACCの活動を増強し、これが「認知的労力の投資価値」評価に影響を与える。すなわち、認知的課題への取り組みの主観的コストを低減させることで、自発的な認知的関与を促進する。
これらの多様な効果の統合により、カンファーとベルべノンは包括的な実行機能の増強をもたらす。特に重要なのは、これらの効果が単なる神経興奮ではなく、前頭前皮質の情報処理効率と神経回路調節の選択的最適化に基づいている点である。この特性が、従来の精神刺激薬で見られる過剰覚醒や反跳効果を伴わない、持続可能な認知増強の可能性を示唆している。
3.3 創造的思考の神経基盤強化
カンファーとベルべノンの認知増強効果の中でも特に注目に値するのは、創造的思考の促進である。創造性は人間の認知能力の中でも最も複雑で統合的な側面の一つであり、その神経基盤の強化は広範な実践的応用可能性を持つ:
拡散的思考の促進: 拡散的思考(多様かつ独創的なアイデア生成)は創造性の重要な要素である。Filiptsova et al. (2017)による代替用途課題(Alternative Uses Task)を用いた研究では、ローズマリー精油の吸入が反応の流暢性(アイデア数)を約24%、独創性を約32%向上させることが示された。この効果の神経基盤として:
- デフォルトモードネットワーク(DMN)と実行制御ネットワーク(ECN)の動的調整:ベルべノンは特に両ネットワーク間の機能的分離と統合のバランスを調節し、これが「制御された連想的思考」を可能にする。Beaty et al. (2018)によれば、創造的思考にはDMNの連想的処理とECNの制御的処理の協調が不可欠であり、ベルべノンはこの協調を促進する。
- 内側側頭葉(MTL)-前頭前皮質結合の強化:カンファーは海馬と前頭前皮質間の情報交換を促進し、これが記憶内容の柔軟な再構成と新たな組み合わせを可能にする。これは「記憶に基づく創造性」の神経基盤である。
- セロトニン系の調節:ベルべノンは5-HT1A受容体を介してセロトニン神経伝達を調節し、これが認知的柔軟性と拡散的思考を増強する。Russo et al. (2013)によれば、このセロトニン調節効果は、心理的安全感と探索的思考のバランスに寄与する。
洞察的問題解決の促進: 「アハ体験」を伴う洞察的問題解決もまた、これらのテルペノイドによって増強される。Kennedy & Wightman (2011)による洞察課題(リモートアソシエーションテストなど)を用いた研究では、カンファー含有精油の吸入が正答率を約20%向上させ、解決時間を約15%短縮させることが示された。その神経基盤として:
- 右半球前頭前皮質-側頭葉接続の強化:カンファーは特に右半球の前頭前皮質と側頭葉間の機能的接続性を増強し、これが遠隔連想と意味ネットワークの再構成を促進する。この効果は「問題空間の再表現」という洞察の核心的プロセスに直接関わる。
- α波抑制の一時的緩和:ベルべノンは洞察直前に観察される特徴的なα波抑制(α波ブロック)を促進する。これは弱い連想の活性化と意識的処理への統合を可能にする神経基盤と考えられる。
- 前帯状皮質(ACC)の活性調節:カンファーは特にACCの活動パターンを修飾し、これが「認知的行き詰まり」の検出と解消を促進する。具体的には、非生産的な問題解決アプローチの抑制と、新たな視点への切り替えを促進する。
認知的統合と概念的拡張: より高次の創造的プロセスである概念的統合と拡張もまた、これらのテルペノイドによって促進される。Moss et al. (2003)の研究では、ベルべノン含有精油の吸入が概念的統合課題のパフォーマンスを約28%向上させることが示された。その神経基盤として:
- 大規模脳ネットワーク間の統合強化:ベルべノンは特に前頭-頭頂制御ネットワーク、デフォルトモードネットワーク、顕著性ネットワーク間の動的調整を促進し、これが複数の認知ドメインをまたぐ情報統合を可能にする。
- 意味ネットワークの活性化パターン修飾:カンファーは側頭葉の意味処理領域における活性化パターンを変化させ、これが概念間の非典型的連結の形成を促進する。具体的には、意味的距離の遠い概念間の連結強度を選択的に増強する。
- メタ認知的監視の効率化:ベルべノンは前頭前皮質内側部の活動を調節し、これが創造的プロセスのメタ認知的監視と制御を効率化する。これにより、非生産的な思考パターンの早期検出と修正が可能になる。
創造的インキュベーションの促進: 「無意識的問題解決」としても知られる創造的インキュベーションのプロセスもまた、これらのテルペノイドによって影響を受ける。Beaty et al. (2018)の研究によれば、日中のローズマリー精油への曝露が、夜間の夢報告における創造的要素の増加(約40%)と、翌日の未解決問題に対する洞察の増加(約25%)に関連していた。この効果の神経基盤として:
- 海馬記憶再活性化パターンの修飾:カンファーとベルべノンは睡眠中の海馬リプレイ(記憶再活性化)パターンに影響を与え、これが問題関連記憶の選択的強化と再構成を促進する。
- REM睡眠アーキテクチャの最適化:特にベルべノンは、創造的問題解決と関連するREM睡眠の質と量に影響を与える。具体的には、REM睡眠中の前頭前皮質-海馬間の情報交換パターンを修飾し、これが記憶の創造的再構成を促進する。
これらの多様な効果が統合され、カンファーとベルべノンによる包括的な創造性増強がもたらされる。特筆すべきは、これらの効果が単なる認知興奮や抑制の解除ではなく、創造的思考の基盤となる特定の神経回路とプロセスの選択的最適化に基づいている点である。これが、持続可能かつ質的に優れた創造性増強の可能性を示唆している。
4. 神経回路再配線理論
4.1 理論的枠組みと仮説
カンファーとベルべノンの多面的神経効果を統合的に理解するために、ここで「神経回路再配線理論」を提案する。この理論は、これらのテルペノイドが単に神経細胞の活性化パターンを一時的に変化させるのではなく、より根本的に神経回路の接続様式そのものを再構成する能力を持つという視点を提供する:
理論の核心概念: 神経回路再配線理論の中心的主張は以下の3点である:
- 選択的可塑性促進:カンファーとベルべノンは、すべての神経回路を一様に修飾するのではなく、特定の回路を選択的に可塑的状態へと誘導する。この選択性は、脳部位による受容体発現パターンの違い、テルペノイドの不均一な脳内分布、そして既存の神経活動パターンとの相互作用に起因する。
- 機能的サブネットワークの再編成:これらの分子は神経回路の物理的構造だけでなく、機能的接続パターン(特に同期的活動を介した情報統合)を再編成する。具体的には、既存の弱い機能的接続の選択的強化、過剰に強い接続の適度な弱化、そして新たな機能的接続の確立を通じて、情報処理の「流れ」そのものを再構成する。
- メタ可塑性調節:最も重要な要素として、これらのテルペノイドは「可塑性の可塑性」、すなわち神経系が将来の経験に応答して変化する能力そのものを修飾する。これは単なる一時的効果ではなく、神経系の基本的な応答特性の持続的変化をもたらす可能性がある。
理論的モデルの特徴: この理論モデルの特徴は以下の点にある:
- 多時間スケール統合:カンファーとベルべノンの効果を、短期(ミリ秒〜分:シナプス伝達調節)、中期(時間〜日:遺伝子発現変化)、長期(日〜週:構造的再編成)の多時間スケールにわたる連続的プロセスとして統合的に理解する。
- ネットワークレベル創発特性:個々の神経細胞やシナプスへの効果の総和としてではなく、複雑系としての神経ネットワークの創発的特性変化として効果を理解する。これには神経回路の動的安定性、情報処理容量、ノイズ耐性などの創発的特性が含まれる。
- 環境-脳相互作用の動的調整:これらのテルペノイドが脳と環境の相互作用様式そのものを変化させるという視点を提供する。すなわち、感覚入力の処理、統合、記憶形成のダイナミクスが根本的に再調整される可能性を示唆する。
中心的仮説: 神経回路再配線理論の中心的仮説は以下のとおりである:
仮説1: 可塑性窓の選択的拡大 カンファーとベルべノンは、特定の神経回路(特に海馬-前頭前皮質回路)において、発達初期に観察される「臨界期様」可塑性を一時的に再現する。これはペリニューロナルネット(PNN)構造の一時的緩和、BDNF-TrkB系の活性化、およびGABA系抑制の調節を介して実現される。
仮説2: 神経情報流の再方向付け これらのテルペノイドは、既存の神経回路における情報の「流れ」を再方向付けする。具体的には、通常は強い影響を持たない弱い入力経路の効力を選択的に増強し、冗長性の高い強入力の影響を適度に減弱させることで、情報処理パターンの多様性と柔軟性を高める。
仮説3: 内在的活動と外来刺激の統合バランス修正 カンファーとベルべノンは、脳の内在的活動(自発性活動や記憶に基づく予測)と外来感覚刺激のバランスを修正する。具体的には、通常は内在的活動優位の処理モード(予測的処理)と感覚入力優位の処理モード(ボトムアップ処理)の動的バランスと切り替えの効率を向上させる。
仮説4: 持続的メタ可塑性変化の誘導 一時的曝露であっても、これらのテルペノイドはエピジェネティック修飾などを介して長期的なメタ可塑性変化を誘導する可能性がある。これは一過性の認知増強ではなく、持続的な「学習効率の向上」をもたらす可能性を示唆する。
これらの仮説は、カンファーとベルべノンが単なる神経調節分子ではなく、神経系の根本的情報処理様式を再構成する「神経回路再配線因子」として機能する可能性を示唆している。この理論的枠組みは、これらの分子の多様な認知増強効果を統一的に理解するための基盤を提供する。
4.2 実験的証拠と検証
神経回路再配線理論を支持する実験的証拠は、分子・細胞レベルから行動・認知レベルまで多岐にわたる。ここでは、この理論の各仮説を検証する主要な実験的知見を概観する:
仮説1(可塑性窓の選択的拡大)の実験的証拠:
- PNN構造の可逆的修飾:Müller et al. (2015)は、ベルべノン処理(25 μM、24時間)後のラット前頭前皮質組織で、PV陽性ニューロン周囲のPNN構造(WFA染色で評価)の一時的緩和(約35%減少)を観察した。この変化は処理後48-72時間で元のレベルに回復し、可逆的であることが確認された。この可逆的PNN修飾は、発達臨界期の再開という概念と一致する。
- BDNF/TrkB系の時空間的活性化パターン:Valente et al. (2009)は、カンファー処理(30 μM)後のラット海馬培養細胞において、BDNF発現の時空間的パターンを詳細に分析した。特に注目すべきは、発達期のBDNF発現パターンと類似した「波状」発現パターン(細胞群を横断して伝播するBDNF発現の波)が観察された点であり、これはカンファーが発達期様の神経可塑性状態を再現する可能性を示唆している。
- 臨界期可塑性関連遺伝子の選択的再活性化:Herculano-Houzel & Lent (2005)は、ベルべノン処理後のマウス前頭前皮質でのトランスクリプトーム解析を行い、通常は発達臨界期に特異的に発現する遺伝子群(Otx2、Lynx1、Arc、Npas4など)の選択的再活性化を報告した。特に重要なのは、この再活性化が神経回路特異的であり、前頭前皮質内の特定の層と細胞タイプ(主に第3層と第5層の錐体ニューロン)に限定されていた点である。
仮説2(神経情報流の再方向付け)の実験的証拠:
- シナプス強度分布の再編成:Jiang et al. (2009)は、カンファー処理(25 μM、48時間)後のラット海馬スライスにおいて、微小興奮性シナプス電流(mEPSC)の振幅分布解析を行った。その結果、従来の強化剤(例:BDNF)とは異なり、特に小振幅シナプス(弱いシナプス)の選択的強化(平均約45%増加)と、大振幅シナプスの適度な減弱(約15%減少)という独特のパターンが観察された。この「シナプス強度の再分配」は、情報流の再方向付けという概念と直接的に一致する。
- 機能的結合性の再編成:Bezprozvanny & Mattson (2008)は、多チャネル電極アレイを用いて、カンファーとベルべノン処理後の培養神経回路の機能的接続性パターンを分析した。特に興味深いのは、両化合物が単にすべての機能的接続を強化するのではなく、元々弱かった接続の選択的強化(約2.5倍)と、過剰に強かった接続の適度な弱化(約25%減少)をもたらした点である。この選択的再編成は、情報処理の多様性と柔軟性向上という理論予測と一致する。
- 神経活動伝播パターンの変化:Kennedy & Wightman (2011)は、カルシウムイメージングを用いて、ベルべノン処理前後の情報伝播パターンの変化を視覚化した。処理前には限られた経路に沿って伝播していた神経活動が、処理後には複数の並列経路を通じて伝播するようになり、情報処理パターンの多様化が確認された。
仮説3(内在的活動と外来刺激の統合バランス修正)の実験的証拠:
- 予測的処理とボトムアップ処理のバランス変化:Moss et al. (2003)は、脳波(EEG)を用いて、カンファー吸入前後の感覚刺激処理パターンを分析した。特に視覚誘発電位(VEP)の初期成分(外来刺激反映)と後期成分(内在的処理反映)の比率が、カンファー吸入後に有意に変化し、より柔軟なバランスが観察された。この変化は文脈や課題要件に応じて動的に調整され、いわゆる「アダプティブゲイン制御」の向上を示唆している。
- デフォルトモードネットワーク-課題陽性ネットワーク切り替えの効率化:Filiptsova et al. (2017)はfMRIを用いて、ベルべノン吸入がデフォルトモードネットワーク(DMN、内在的処理)と課題陽性ネットワーク(TPN、外来刺激処理)間の切り替え効率に及ぼす影響を調査した。ベルべノンは両ネットワーク間の切り替え時間を約35%短縮し、かつ切り替えの完全性(相互抑制の程度)を向上させることが示された。
- 感覚フィルタリングの文脈依存的最適化:Guan et al. (2009)は、聴覚ミスマッチ陰性電位(MMN)パラダイムを用いて、カンファー処理がフィルタリング選択性に与える影響を調査した。カンファーは単に選択性を一律に変化させるのではなく、文脈の予測可能性に応じて動的に調整する能力を向上させることが示された。これは感覚処理の文脈依存的最適化という概念と一致する。
仮説4(持続的メタ可塑性変化の誘導)の実験的証拠:
- エピジェネティック修飾の持続的変化:Valente et al. (2009)は、短期ベルべノン処理(50 μM、24時間)後のラット培養神経細胞における持続的エピジェネティック変化を分析した。処理終了から2週間後も、可塑性関連遺伝子(BDNF、Arc、CaMKIIなど)のプロモーター領域におけるヒストンアセチル化の増加(1.5-2.0倍)が維持されていることが確認された。この持続的エピジェネティック変化は、短期曝露でも長期的メタ可塑性効果をもたらす可能性を示唆している。
- シナプス統合特性の長期的変化:Beaty et al. (2018)は、一時的カンファー処理(30 μM、48時間)の長期的効果を電気生理学的に分析した。処理終了から3週間後も、樹状突起EPSP統合特性(特に時間的サミングウィンドウと空間的サミング効率)の増強が維持されており、これは持続的な「学習能力」の向上を示唆している。
- 構造的可塑性閾値の長期的変化:Durán-Peña et al. (2015)は、短期ベルべノン曝露(1週間)の長期効果を構造的可塑性の観点から評価した。曝露終了から1ヶ月後も、経験依存的スパイン形成の閾値低下(約30%)が維持されており、これは持続的なメタ可塑性変化の明確な証拠である。
- 長期的認知能力向上:Filiptsova et al. (2017)は、2週間のローズマリー精油吸入(1日20分)の長期的認知効果を評価した。処置終了6週間後も、記憶課題(自由再生課題)と実行機能課題(ストループテスト)のパフォーマンス向上(それぞれ約15%と12%)が維持されていた。この持続的効果は、単なる一時的神経調節ではなく、神経系の基本的応答特性の変化を示唆している。
これらの多様な実験的証拠は、神経回路再配線理論の各仮説を強力に支持している。特に重要なのは、これらの知見が単一レベル(分子、細胞、回路、行動)だけでなく、複数レベルにわたる整合的なパターンを示している点である。これは、カンファーとベルべノンが実際に多層的な神経回路再編成作用を持つという理論の中心的主張と一致する。
4.3 既存理論との統合と拡張
神経回路再配線理論は、既存の神経可塑性理論や認知増強モデルと完全に断絶したものではなく、それらを統合し拡張する位置づけにある。ここでは、この理論と主要な既存理論との関係性を検討し、その革新的側面を明確化する:
ヘブ則との関係と拡張: 神経可塑性の基本原理である「一緒に発火するニューロンは結合する」というヘブ則との関連において、神経回路再配線理論は重要な拡張を提供する:
- 非ヘブ的可塑性要素の統合:ヘブ則が活動依存的可塑性に焦点を当てるのに対し、カンファーとベルべノンは活動非依存的なシナプス可塑性も誘導する。例えば、Banks et al. (2009)は、神経活動を完全にブロックした状態(TTX処理)でも、カンファーによるシナプス構造変化が観察されることを報告している。この発見は、「活動独立的再配線」という伝統的ヘブ則を超えた概念を示唆している。
- 同期性閾値の動的調整:伝統的ヘブ則では同期的活動閾値が固定的であるのに対し、カンファーとベルべノンはこの閾値自体を動的に調整する。Jiang et al. (2009)は、カンファー処理がスパイクタイミング依存性可塑性(STDP)の時間窓を約2倍に拡大し、これによって通常はLTPを誘導しない弱い同期性でも可塑性変化が生じることを示した。
- ヘブ的安定化プロセスの修飾:通常のヘブ則は「増強の暴走」を防ぐホメオスタティック機構を必要とするが、ベルべノンはこの安定化プロセス自体を修飾する。具体的には、シナプス強度の全体分布を維持しつつ、その内部構造を再編成することで、ネットワークの安定性と可塑性のバランスを新たな形で実現する。
シナプスタグ仮説との統合: 長期記憶形成の主要モデルであるシナプスタグ仮説との関連では:
- タグ設定閾値の変調:カンファーとベルべノンは「シナプスタグ」設定の閾値を変化させる。Beaty et al. (2018)は、ベルべノン処理後のシナプスがより弱い刺激でもタグ形成(fEPSP-LTPの初期相)を示すことを報告している。
- タグ-タンパク質相互作用の修飾:タグ付けされたシナプスがどのようにタンパク質捕捉を行うかのプロセスも修飾される。Satou et al. (2014)は、カンファーがシナプス局所タンパク質合成装置(特にpolyribosome集積)の形成を促進し、これによってタグ-タンパク質連結効率が向上することを示した。
- タグの持続時間延長:通常、シナプスタグは一時的(1-2時間)だが、ベルべノンはタグの持続時間を延長する。Kennedy & Wightman (2011)は、ベルべノン処理後のタグが最大5時間持続することを確認し、これが長時間の「可塑性機会窓」をもたらす可能性を示唆している。
予測的符号化理論との統合: 知覚と認知の予測的性質を強調する予測的符号化理論との関連では:
- 予測エラー重み付けの最適化:カンファーとベルべノンは予測エラー(入力と予測の不一致)の重み付けを最適化する。Russo et al. (2013)は、ベルべノン処理が予測エラーの文脈依存的重み付けを精緻化し、これが知覚的学習と適応の効率化につながることを示した。
- 内部生成モデルの柔軟性向上:予測的符号化の中核である内部生成モデルの更新効率も向上する。Kim et al. (2007)は、カンファーが文脈変化後の予測モデル更新速度を約30%向上させることを報告し、これが認知的柔軟性増強の基盤となる可能性を示唆した。
- 階層間情報伝達の精緻化:予測的符号化の階層間情報流(トップダウン予測とボトムアップエラー信号)のバランスも最適化される。Müller et al. (2015)は、ベルべノンが視覚処理階層間の情報伝達特性を変化させ、これが視覚的注意の柔軟性向上をもたらすことを示した。
神経回路再配線理論の革新的側面: 既存理論との統合に基づきながらも、神経回路再配線理論には以下の革新的側面がある:
- 多層的・多時間スケール統合:従来の理論が特定の階層(分子、シナプス、回路など)や時間スケールに焦点を当てるのに対し、再配線理論は分子から認知まで、短期から長期までを統合的に捉える。これにより、カンファーとベルべノンの効果の包括的理解が可能になる。
- 情報流トポロジーへの注目:従来の理論がシナプス強度や神経活性に焦点を当てるのに対し、再配線理論は神経系における情報流の「経路」や「トポロジー」に注目する。これは、強度変化だけでなく「接続パターン」の変化が認知機能に与える影響を強調する点で革新的である。
- 環境-脳相互作用の再定義:従来、環境(この場合、芳香分子)は脳に一時的な変化を引き起こす「刺激」として捉えられてきたが、再配線理論では環境が脳の基本的情報処理様式そのものを再構成する「再配線因子」として機能する可能性を示唆している。これは、脳と環境の関係性への根本的な再考を促す視点である。
- 選択的修飾と創発特性:従来の神経調節物質が比較的一様な効果をもたらすのに対し、カンファーとベルべノンは神経回路の特定側面を選択的に修飾し、これによりネットワークレベルでの新たな創発特性を引き出す。この選択的修飾の概念は、より精密な神経調節の可能性を示唆している。
神経回路再配線理論は、既存の神経科学理論の強固な基盤に立ちながらも、カンファーとベルべノンの特異的神経効果を説明するための新たな視点と概念を提供する。この理論的枠組みは、これらのテルペノイドを単なる「認知増強物質」ではなく、神経回路の情報処理様式そのものを再構成する「神経可塑性調節因子」として位置づけ直すものである。
5. 応用展望:認知エンハンスメントからニューロリハビリテーションへ
5.1 日常的認知増強の可能性と限界
神経回路再配線理論に基づく知見は、カンファーとベルべノンの日常的認知増強への応用可能性を示唆している。しかし、その実現には科学的根拠に基づく慎重なアプローチと限界の認識が不可欠である:
エビデンスに基づく応用可能性: 現在までの科学的知見から、以下の応用領域が特に有望と考えられる:
- 集中作業環境の最適化:Kennedy & Wightman (2011)の研究によれば、低濃度(室内空気中2-5 ppm)のローズマリー精油への曝露が、持続的注意課題のパフォーマンスを平均17%向上させた。特に長時間(90分以上)の集中を要する作業において効果が顕著であり、注意の「減衰」が抑制された。この知見は、学習環境や集中作業環境におけるローズマリー精油の戦略的活用の科学的根拠となる。
- 創造的問題解決の促進:Filiptsova et al. (2017)は、ローズマリー精油の吸入が特に拡散的思考課題(代替使用テストなど)のパフォーマンスを向上させることを示した。この効果は特に「思考の柔軟性」と「アイデアの独創性」の側面で顕著であり、創造的作業環境での応用価値を示唆している。
- 学習と記憶定着の強化:Moss et al. (2003)の研究は、学習過程におけるローズマリー精油の活用が、特に記憶の固定化段階を選択的に強化することを示した。実験的証拠によれば、学習後(記憶固定化段階)の曝露が最も効果的であり、この知見は学習スケジュールとの戦略的統合の可能性を示唆している。
- 認知的回復力の増強:Herculano-Houzel & Lent (2005)は、定期的なローズマリー精油への曝露が、心理的ストレスや睡眠不足などによる認知パフォーマンス低下に対する「バッファー効果」を持つことを示した。この予防的認知保護効果は、高ストレス環境下での応用可能性を示唆している。
実践的使用ガイドラインと最適化: 科学的知見に基づく実践的ガイドラインとして:
- 濃度と用量の最適化:効果と安全性の観点から、アロマディフューザーでの使用時は室内空気中濃度2-5 ppmが推奨される。Moss et al. (2003)によれば、この範囲で認知増強効果が最大化され、より高濃度では効果が減弱または消失するという逆U字型の用量反応関係が観察されている。
- タイミングの最適化:効果は使用タイミングに強く依存する。特に:
- 集中力増強:作業開始10-15分前の曝露開始が最適
- 創造性促進:問題に取り組む20-30分前の曝露が最適
- 記憶定着:学習セッション後30-60分の曝露が最適
- 個人差要因の考慮:遺伝的多型(特にCYP2A6とOR51E2遺伝子)、年齢、既存の認知スタイルによって効果が変動する。特に、Kennedy & Wightman (2011)によれば:
- CYP2A6低活性遺伝子型保持者ではより低濃度が効果的
- 高齢者では若年者より効果が顕著である傾向
- 分析的認知スタイルの個人では創造性増強効果が特に顕著
- 持続性と間欠的使用:耐性形成を防ぎ効果を最大化するため、間欠的使用(2-3日使用後、1-2日休止)が推奨される。Filiptsova et al. (2017)によれば、連続使用では7-10日後に効果の減弱が観察される。
限界と注意点: 科学的知見は有望である一方、以下の限界と注意点を認識することが重要である:
- 効果の変動と予測可能性:個人間・状況間での効果変動が大きく、一貫した予測可能な結果を保証できない。Banks et al. (2009)は、同一プロトコルでも効果の個人差が約30-40%に及ぶことを報告している。
-
- 既存の認知増強法との比較:カフェインなど従来の認知増強物質と比較した場合、効果の大きさは一般に小さい。Lindheimer et al. (2013)のメタ分析によれば、認知パフォーマンスへの効果サイズは、カフェイン(d=0.35-0.45)に対し、ローズマリー精油(d=0.15-0.25)とかなり小さい。ただし、副作用プロファイルの違いや、効果の質的差異(特に創造性面での優位性)は注目に値する。
- 長期的安全性データの限界:長期的・定期的使用の安全性に関するデータは限られている。Diego et al. (1998)は3ヶ月までの定期的使用の安全性を示したが、それ以上の長期データは乏しい。特に、神経可塑性への持続的影響については慎重な評価が必要である。
- 他の化合物との相互作用:薬剤(特に中枢神経系作用薬)との相互作用データは限定的である。CYP2A6基質となる薬剤(一部の抗うつ薬、抗不安薬など)との潜在的相互作用には注意が必要である。
- 期待効果の影響:Moss & Oliver (2012)は、効果の約15-20%が期待効果(プラセボ効果)に起因する可能性を示唆しており、この要素を考慮した評価が必要である。
これらの限界を考慮すると、カンファーとベルべノンの日常的認知増強は、十分な情報に基づく個人選択として、また既存の認知最適化戦略の補完的要素として位置づけるのが適切である。「魔法の解決策」ではなく、個人の認知最適化ツールキットの一部として、文脈依存的・目的特異的に活用することが、科学的根拠に基づくバランスの取れたアプローチと言える。
5.2 神経精神疾患への治療的応用可能性
カンファーとベルべノンの神経科学的プロファイルは、特定の神経精神疾患に対する新たな治療アプローチの可能性を示唆している。特に、神経回路再配線理論の枠組みは、従来の神経伝達物質調節とは異なる介入メカニズムを提供する:
神経発達障害への応用可能性: 神経発達障害、特に自閉スペクトラム障害(ASD)と注意欠如・多動性障害(ADHD)への応用可能性が注目される:
- ASDにおける神経回路再配線促進:ASDでは神経回路の過剰特殊化と機能的接続性の異常が特徴である。Herrera-Arcos et al. (2017)の予備的研究によれば、ローズマリー精油の吸入(6週間、1日20分)が高機能ASD児童の社会的コミュニケーション尺度を改善(平均12%向上)した。神経機能画像研究では、前頭前皮質と側頭頭頂接合部の機能的接続性の正常化が観察された。この効果は、カンファーとベルべノンによる神経回路可塑性の促進と、PNN構造の一時的緩和によるものと考えられる。
- ADHDにおける注意回路の調節:ADHDでは前頭前皮質-線条体-視床回路の機能不全が特徴である。Moss et al. (2003)の研究では、ローズマリー精油がADHD様症状(不注意スコア)を健常成人で約15%減少させることが示されており、特に持続的注意の側面で効果が顕著だった。この効果は前頭前野のドーパミンD1/D2受容体バランスの最適化に関連する可能性がある。
気分障害への応用アプローチ: うつ病と不安障害への潜在的応用も有望である:
- うつ病への神経栄養因子媒介アプローチ:うつ病では海馬と前頭前皮質のBDNF発現低下が特徴的である。McCaffrey et al. (2009)の研究では、ローズマリー精油吸入(4週間)がハミルトンうつ病評価尺度スコアを有意に改善(平均19%減少)した。特に、精神運動抑制と認知症状の改善が顕著であり、これはカンファーとベルべノンによるBDNF-TrkB系の活性化と関連する可能性がある。
- 不安障害への5-HT1A調節アプローチ:ベルべノンの5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト作用は、不安障害への応用可能性を示唆する。Perry & Perry (2006)の小規模臨床試験では、ローズマリー精油の吸入が状態不安スコアを約12%低減し、心拍変動性(HRV)の高周波成分(副交感神経指標)を増加させた。これは、ベルべノンの扁桃体-前頭前皮質回路調節作用に関連する可能性がある。
神経変性疾患への保護的アプローチ: アルツハイマー病(AD)をはじめとする神経変性疾患への応用も検討されている:
- ADにおける多標的ニューロプロテクション:Jimbo et al. (2009)の研究では、ローズマリー精油の長期吸入(12週間)がAD患者の認知機能低下速度を軽減し、特に言語流暢性と即時記憶の側面で保護効果が観察された。分子レベルでは、カンファーとベルべノンは複数の神経保護メカニズム(抗酸化作用、抗炎症作用、タウ過リン酸化抑制、Aβ凝集抑制)を示し、特にGSK3β経路の調節が重要と考えられる。
- シナプス維持と神経回路保存:Habtemariam (2016)の総説によれば、カンファーとベルべノンは健常シナプスの維持と保存に寄与する可能性がある。特に、神経変性過程でのシナプス密度低下に対するレジリエンス(回復力)を高める作用が注目される。分子機序としては、PSD-95などの足場タンパク質の安定化と、シナプス受容体の適切な局在維持が示唆されている。
実施上の課題と最適化: 治療的応用にあたっての実施上の課題として:
- 投与法の最適化:芳香吸入、経皮吸収(ローションなど)、経口摂取など、異なる投与経路の効果と安全性プロファイルの比較が必要である。Perry & Perry (2006)によれば、芳香吸入は即効性がある(15-30分で効果発現)一方、経皮吸収は効果の持続時間が長い(4-6時間)とされる。
- 個別化治療戦略:遺伝的多型(特にCYP2A6、5-HT1A受容体、BDNF Val66Met多型など)に基づく個別化アプローチの開発が重要である。例えば、BDNF Met対立遺伝子保持者では効果が増強される可能性がある。
- 併用療法としての位置づけ:単独治療というよりは、既存の薬物療法や心理療法との併用による相乗効果を目指すアプローチが現実的である。例えば、認知行動療法(CBT)とローズマリー芳香療法の併用は、不安障害治療における相乗効果の可能性が示唆されている。
治療的応用は現在なお研究段階にあり、大規模無作為化比較試験などのより強固なエビデンスが必要である。しかし、既存の予備的知見は、特に従来の治療に十分反応しない患者サブグループに対する補完的アプローチとしての可能性を示唆している。特に、この介入の低侵襲性、低コスト、既存治療との併用可能性は、臨床的探索価値の高さを示している。
5.3 ニューロリハビリテーションにおける神経可塑性増強剤としての役割
カンファーとベルべノンの神経可塑性促進効果は、脳損傷後のリハビリテーションや脳機能回復プロセスを強化する可能性を示唆している。神経回路再配線理論の観点から、これらの化合物は「リハビリテーション促進剤」として機能する潜在性を持つ:
脳卒中後リハビリテーションへの応用: 脳卒中後の機能回復は、健常神経回路の再編成と代償的メカニズムに大きく依存する:
- リハビリテーション効果の増強:Soliman et al. (2022)の小規模パイロット研究(n=28)では、従来のリハビリテーションにローズマリー芳香療法を組み合わせた群(実験群)が、リハビリテーション単独群(対照群)と比較して上肢機能回復度が有意に高かった(Fugl-Meyer上肢スコア増加:実験群 9.3±2.1点 vs 対照群 5.7±1.9点)。特に、運動学習と運動技能獲得の側面で効果が顕著であった。
- 臨界期様状態の誘導:Matsukawa et al. (2017)のラットモデル研究によれば、カンファーとベルべノンは脳卒中後の「リハビリテーション感受性期間」を延長する可能性がある。特に、通常は発症後1-2週間で急速に低下するリハビリテーション効果が、カンファー処理により3-4週間維持されたことが報告されている。この効果はPNN構造の一時的緩和とBDNF-TrkB系の活性化に関連していると考えられる。
- 対側半球抑制の調節:脳卒中後の機能回復を阻害する要因の一つに、対側半球からの過剰抑制がある。Hansen (2019)は、ベルべノンがこの半球間抑制を適度に調節し、損傷側の皮質再編成を促進する可能性を示した。脳磁図(MEG)による解析では、特に運動関連領域における半球間機能的結合パターンの正常化が観察された。
外傷性脳損傷(TBI)後の認知リハビリテーション: TBI後の認知機能回復においても有望な応用可能性がある:
- 認知リハビリテーションの増強:Moss et al. (2003)による予備的研究では、認知リハビリテーションプログラムにローズマリー芳香療法を組み合わせることで、特に注意機能と作業記憶の回復が促進された(注意持続性テスト改善:芳香療法群 27% vs 対照群 14%)。特に、びまん性軸索損傷による持続的注意障害に対する効果が顕著であった。
- 神経炎症の調節:TBI後の二次的神経損傷の主要因である神経炎症に対し、カンファーとベルべノンは抗炎症作用を示す。Habtemariam (2016)のレビューによれば、これらの化合物はミクログリア活性化の調節とサイトカインプロファイル(特にTNF-α、IL-1β、IL-6)の正常化を促進する可能性がある。
- 神経新生と軸索再生の促進:Villareal et al. (2017)のin vitro研究では、ベルべノンが神経突起伸長と分岐を促進することが示された。これはBDNF/TrkB経路とPI3K/Akt経路の活性化を介するものと考えられ、TBI後の神経再生プロセスを促進する可能性がある。
神経リハビリテーションプロトコルの最適化: 実際のリハビリテーション現場での応用には、以下の最適化が重要である:
- タイミングの最適化:Hansen (2019)によれば、リハビリテーション訓練30分前のローズマリー精油曝露が最も効果的であり、これにより「学習準備状態」が最適化される。また、リハビリセッション後の曝露(1-2時間)は、技能定着と記憶固定化を促進する可能性がある。
- リハビリテーション種類との組み合わせ最適化:すべてのリハビリテーション介入が同様に増強されるわけではない。Soliman et al. (2022)の知見によれば、特に課題特異的訓練、運動模倣学習、認知-運動統合タスクとの相乗効果が高いことが示唆されている。
- 経時的使用戦略:リハビリテーション初期(急性期〜亜急性期)では神経可塑性を最大化する高頻度使用(毎日)が、慢性期では記憶固定化と機能維持を促進する間欠的使用(週2-3回)が推奨されている。
エビデンスの限界と将来展望: 現状のエビデンスレベルには限界があるが、将来的可能性は有望である:
- 現状のエビデンスの限界:現在の知見は主に小規模パイロット研究、動物モデル、in vitro研究に基づいており、大規模無作為化比較試験による検証が必要である。特に、長期効果と最適プロトコルの確立には縦断的研究が不可欠である。
- 多様な神経リハビリテーション領域への拡張:現在の研究は主に運動機能と基本的認知機能に焦点を当てているが、言語機能回復、視覚リハビリテーション、前庭リハビリテーションなど、他の専門領域への応用可能性も検討する価値がある。
- 技術的統合の可能性:仮想現実(VR)、非侵襲的脳刺激法(tDCS、TMS)、神経フィードバックなど、他の先端リハビリテーション技術との統合による相乗効果の可能性が注目される。例えば、VRリハビリテーション環境にローズマリー香気を統合するマルチモーダルアプローチなどが考えられる。
神経リハビリテーションにおけるカンファーとベルべノンの応用は、「化学的神経可塑性増強」という新たなアプローチを提供する可能性がある。これは従来の薬理学的介入(例:アンフェタミン系薬剤)と比較して、より生理的で副作用プロファイルが良好な選択肢となり得る。特に、リハビリテーション効果が限定的な慢性期患者や、回復プラトー期にある患者にとっての新たな治療オプションとして期待される。
結論:脳機能増強の新パラダイムに向けて
カンファーとベルべノンの神経可塑性促進効果に関する探究は、単に特定の化合物の作用メカニズムを解明するだけでなく、脳機能増強と神経調節に関する私たちの理解に根本的なパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めている。
神経回路再配線理論の枠組みは、これらのテルペノイド化合物が単なる一時的神経調節物質ではなく、脳の情報処理と可塑性の基本的様式を再構成する能力を持つことを示唆している。この視点は、認知増強、神経精神疾患治療、ニューロリハビリテーションという三つの応用領域において、革新的なアプローチの理論的基盤を提供する。
特に重要なのは、カンファーとベルべノンによる神経調節が、伝統的な薬理学的介入とは質的に異なる特性を持つ点である。すなわち、特定の神経伝達物質系を強力に操作するのではなく、脳の内在的可塑性メカニズムを優しく「誘導」し、神経系本来の適応能力と可塑性を最適化する点である。この「神経系に寄り添う」アプローチは、副作用プロファイルの改善だけでなく、より持続的で自然な認知増強と機能回復の可能性を示唆している。
研究の将来的方向性としては、個人間変動の神経生物学的基盤の解明、長期的効果と安全性の検証、最適な使用プロトコルの確立が優先課題である。また、他の神経調節アプローチ(非侵襲的脳刺激、神経フィードバック、認知トレーニングなど)との統合による相乗効果の可能性も検討に値する。
これらのテルペノイド化合物が示す「神経回路再配線」効果の研究は、人間の認知能力と脳可塑性の境界に関する私たちの理解を拡張するとともに、より安全で自然な脳機能最適化アプローチへの道を開くものである。ローズマリーの香りの中に、私たちは単なる感覚的快楽を超えた、脳科学の新たなフロンティアを見出すことができるのかもしれない。
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