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ワクチン応答の男女・10代20代などの年齢から考える注意点と効果相関

第2部:個人免疫生態系から見た最適ワクチン戦略 – リスク・ベネフィット評価の再構築

「ワクチンは安全で有効である」—この一般的な命題は統計的には正確であっても、個々の人間に適用する際には重要な修飾が必要となる。現代免疫学と臨床研究の進歩は、ワクチン応答の顕著な個人差を明らかにし、この差異が単なる統計的変動ではなく、各個人固有の「免疫生態系」に由来することを示している。本章では、この個人免疫生態系の概念を出発点として、ワクチンのリスク・ベネフィット評価を再構築し、より精緻で個別化されたワクチン戦略の科学的基盤を探求する。

1. 個人免疫生態系:一人ひとり異なる免疫環境

従来のワクチン政策は「平均的個体」を想定した集団アプローチが中心だったが、現代免疫学は人々の間に存在する免疫応答の質的・量的差異が、想定以上に大きく、医学的に重要であることを示している。この差異を理解するための枠組みとして「個人免疫生態系」という概念が有用である。

1.1 免疫生態系の定義と構成要素

「免疫生態系」とは、個人の免疫システムとそれを取り巻く要素が形成する複雑な相互作用ネットワークを指す概念である。Davis & Brodin(2023)によれば、この生態系は少なくとも以下の要素から構成される[1]:

内因性要素

  • 遺伝的背景:HLA型、サイトカイン遺伝子多型、受容体変異など
  • 年齢とそれに伴う発達/老化状態
  • 性別と性ホルモン環境
  • 既往感染歴とワクチン接種歴
  • 基礎疾患と生理学的状態

外因性要素

  • マイクロバイオーム組成(腸内、皮膚、気道など)
  • 環境暴露歴(アレルゲン、大気汚染物質など)
  • 栄養状態とビタミン/ミネラルレベル
  • 睡眠パターンとストレスレベル
  • 薬剤使用(特に免疫調節薬)

これらの要素は静的ではなく、時間とともに変化し、また互いに影響し合う動的システムを形成している。Netea et al.(2024)は、この免疫生態系を「免疫指紋」(immuno-fingerprint)と表現し、各個人に固有の免疫応答特性を決定づける要素として概念化している[2]。

1.2 免疫多様性の進化的意義

個人間の免疫応答の差異は、偶然の結果ではなく、種としての生存戦略において重要な意味を持つ。Hill(2022)は、集団内の免疫多様性が感染症に対する「全滅回避戦略」として機能することを指摘している[3]。

この概念によれば、同一病原体に対しても個人ごとに応答能力が異なることで、どのような新規病原体が出現した場合でも集団全体が全滅するリスクを低減できる。逆に言えば、全員が免疫学的に均一であれば、特定の病原体によって集団全体が壊滅的な打撃を受ける可能性がある。

歴史的に見ても、大規模疫病(黒死病、天然痘など)でさえ、感染可能な集団の一部が生存者として残った事実は、この免疫多様性の進化的価値を示唆している。Quintana-Murci(2023)の研究は、過去の感染症アウトブレイクが現代人の免疫関連遺伝子の多様性形成に大きく寄与したことを示している[4]。

この進化的視点は、ワクチン応答の個人差を「克服すべき問題」としてではなく、「理解し尊重すべき生物学的現実」として捉え直す基盤を提供する。

1.3 個人免疫生態系の評価方法

免疫生態系を理解するための方法論も急速に発展している。従来の臨床検査(白血球分画、抗体価測定など)を超えて、より包括的な評価が可能になりつつある:

システム免疫学的アプローチ

  • マルチオミクス解析:ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、マイクロバイオームの統合分析
  • 単一細胞技術:CyTOF(細胞質量分析法)、単一細胞RNA-seq、空間トランスクリプトミクスなど
  • 免疫レパートリー解析:高スループットシーケンシングによるT細胞受容体(TCR)とB細胞受容体(BCR)レパートリーの解析

Pulendran(2023)は、これらの技術を用いた「免疫健康指標」(immunological health metrics)の開発を提案している[5]。この指標は、個人の免疫状態をより定量的・客観的に評価し、「最適」「未熟」「老化」「過剰活性化」などの状態を同定することを目指している。

しかし、Brodin(2022)が指摘するように、これらの高度技術を臨床現場で広く応用するには、コスト、複雑性、標準化の課題が残されている[6]。現実的なアプローチとしては、既存の臨床検査と新技術を組み合わせた段階的評価法が考えられる。

2. 年齢軸から見たワクチン戦略の最適化

免疫系は生涯を通じて劇的に変化し、各発達段階で特有の特性を示す。この変化を理解することは、年齢に応じたワクチン戦略最適化の基盤となる。

2.1 新生児期・乳児期の免疫特性とワクチン応答

誕生から生後1年程度の免疫系は、急速な発達過程にあると同時に、特有の制約も抱えている:

新生児期(生後28日まで)の免疫特性

新生児の免疫系は「未熟」ではなく、むしろ特殊な環境に適応した独自のプログラムを持つ。Kollmann & Kampmann(2023)の研究によれば[7]:

  • 自然免疫応答は成人と同等かそれ以上に活発(特に好中球とマクロファージの機能)
  • 炎症反応は厳密に制御され、過剰炎症を防ぐ抗炎症バイアスを持つ
  • T細胞応答はTh2型(IL-4、IL-5産生)に偏る傾向がある
  • サイトカイン産生パターンが成人と異なり、IFN-γ産生が限定的
  • 母体からの移行抗体(主にIgG)が存在し、免疫応答に複雑な影響を与える

この時期のワクチン応答に特徴的なのは「母体抗体干渉」(maternal antibody interference)現象である。母親から胎盤を通じて受け取ったIgG抗体が、ワクチン抗原と結合して免疫細胞からの「隠蔽」を起こし、免疫応答効率を低下させる。この現象は特に麻疹、ポリオ、インフルエンザワクチンで顕著である。

そのため、多くのワクチンは生後2ヶ月以降に開始されるが、例外的にBCG(結核)やB型肝炎ワクチンは出生直後に投与される。Wood & Siegrist(2022)は、これらのワクチンが母体抗体干渉の影響を比較的受けにくいことを示している[8]。

乳児期(生後1-12ヶ月)のワクチン応答

この時期は免疫系の急速な発達に合わせて、多くの基本ワクチンが投与される。しかし、免疫応答には依然として年齢特有の制約がある:

  • B細胞の体細胞超変異機能が発達途上で、抗体親和性成熟が限定的
  • 胚中心反応の効率が低く、長寿命形質細胞の生成が制限される
  • 記憶T細胞形成能力が成熟中で、特にCD8+T細胞記憶が弱い
  • 粘膜免疫系の発達が不完全で、分泌型IgA産生が限られる

これらの制約に対応するため、乳児期ワクチンは通常、複数回の接種(プライム・ブースト戦略)が必要となる。また、アジュバントの役割も特に重要で、アルミニウム塩などのアジュバントが免疫応答の増強に不可欠である。

O’Connor et al.(2023)の研究は、乳児期の反復ワクチン接種が単なる抗体価上昇以上の効果を持つことを示している[9]。具体的には、接種を重ねるごとに:

  • B細胞レパートリーの多様性が増加
  • 抗体親和性が向上
  • 記憶B細胞の質的成熟が促進
  • T細胞記憶の安定性が向上

これらの知見は、乳幼児期のワクチン接種スケジュールが単なる「経験則」ではなく、発達免疫学に基づく科学的根拠を持つことを示している。

2.2 小児期・思春期の免疫特性とワクチン応答

2歳から思春期にかけての免疫系は、最も活発な学習と適応の時期にある:

小児期(2-9歳)の免疫特性

この時期の免疫系は:

  • 適応免疫系のレパートリア多様性が急速に拡大
  • Th1/Th2バランスが成人型に近づく(Th2バイアスが減少)
  • 胚中心反応の効率が向上し、より質の高い記憶B細胞形成が可能に
  • 粘膜免疫系が発達し、分泌型IgA産生能力が向上
  • 自然免疫系のパターン認識受容体(PRR)応答パターンが成熟

Tregoning et al.(2022)は、この時期の免疫系を「最適学習期」と表現し、新規抗原に対する応答能力と記憶形成効率が生涯で最も高い時期としている[10]。

この時期のワクチン戦略としては、乳児期に開始したワクチンの追加接種(DTP、ポリオなど)と、学校入学に合わせた新規ワクチン(MMR第2期、日本脳炎など)が中心となる。

特に注目すべきは、この時期のワクチン応答の「質的優位性」である。Vono et al.(2023)の研究によれば、同一ワクチンでも小児期に接種した場合、より多様なエピトープに対する応答、より幅広いエフェクター機能を持つ抗体産生、より長期持続的な記憶T細胞形成が観察されるという[11]。

思春期(10-16歳)の免疫特性

思春期には性ホルモンの影響が顕著になり、性差が明確化する:

  • 女性ではエストロゲン上昇に伴いB細胞活性と抗体産生が促進
  • 男性ではテストステロン上昇に伴い細胞性免疫(特にCD8+T細胞)が増強
  • 炎症反応の制御機構が成熟し、炎症の「解像」プロセスが効率化
  • 免疫記憶の維持と再活性化機構が完成

この時期に特徴的なワクチンとしてHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンがある。これは性行為開始前の接種が最も効果的とされる典型例である。

Fischinger et al.(2022)の研究は、思春期のHPVワクチン接種が成人期と比較して、より広範なウイルス型に対する交差防御抗体を誘導することを示している[12]。また、この時期のワクチン応答の強さは、副反応(発熱、接種部位反応など)の発生率が比較的高い傾向にも反映されている。

2.3 成人期の免疫応答と最適ワクチン戦略

18歳から40歳程度までの若年成人期は、免疫機能が最も安定し効率的な時期と考えられている:

若年成人期(18-40歳)の免疫特性

  • T細胞・B細胞レパートリアの多様性が最大
  • 免疫記憶の形成・維持が最も効率的
  • 自然免疫と適応免疫の連携が最適化
  • 免疫恒常性(ホメオスタシス)の制御が安定

この時期のワクチン接種は、主に以下のカテゴリーに分類される:

  • 小児期ワクチンの追加接種(Tdap 10年ごとなど)
  • 特定リスク環境に基づく選択的ワクチン(渡航、職業曝露など)
  • 定期接種(インフルエンザなど)

Shi et al.(2023)は、若年成人のワクチン接種率が小児・高齢者と比較して著しく低いことを指摘している[13]。これは「健康バイアス」(健康だから接種不要と考える傾向)と医療機関への定期接触の減少に関連している可能性がある。

中年期(40-65歳)の免疫変化

中年期には緩やかな免疫機能変化が始まる:

  • ナイーブT細胞プールの徐々の縮小
  • 胸腺萎縮の進行によるT細胞新生の減少
  • 低レベル慢性炎症(インフラメイジング)の増加
  • 免疫応答の質的変化(特に抗体レパートリア多様性の減少)

Goronzy & Weyand(2022)は、これらの変化が感染症リスク増加やワクチン応答低下に直接関連するわけではないが、「免疫予備力」(immunological reserve)の減少を示しており、特にストレス条件下での免疫応答能力に影響する可能性を指摘している[14]。

この時期には、加齢に伴うリスク増加を考慮したワクチン(帯状疱疹ワクチンなど)や、特定疾患リスクに基づくワクチン(肺炎球菌ワクチンなど)が推奨される場合がある。

2.4 高齢者免疫学とワクチンの課題

65歳以上の高齢期には「免疫老化」(immunosenescence)と呼ばれる複合的変化が生じ、ワクチン応答に大きな影響を与える:

免疫老化の多面的特性

免疫老化は単純な「機能低下」ではなく、特有の再プログラミングを含む複雑な現象である:

  • T細胞変化:
    • ナイーブT細胞の著しい減少(特にCD8+T細胞)
    • CD28-T細胞の蓄積(共刺激能の減弱)
    • レパートリア多様性の縮小と「優勢クローン」の出現
    • T細胞活性化閾値の上昇
  • B細胞変化:
    • ナイーブB細胞の減少
    • 抗体レパートリア多様性の減少
    • 抗体親和性成熟の効率低下
    • 長寿命形質細胞の骨髄ニッチ形成効率の低下
  • 自然免疫変化:
    • 好中球のNET形成(neutrophil extracellular traps)能減弱
    • 樹状細胞の抗原提示効率低下
    • 自然免疫記憶(訓練性免疫)応答の変化
    • 炎症解像(resolution)過程の遅延
  • 炎症環境:
    • 低レベル慢性炎症(inflammaging)の存在
    • IL-6、TNF-α、IL-1βなどの炎症性サイトカイン基礎レベル上昇
    • 自己抗体の増加

Fulop et al.(2023)は、これらの変化が「免疫再構築」(immune remodeling)として理解されるべきだと主張している[15]。すなわち、加齢に伴う生理的変化に適応するための免疫系の再構築であり、単なる「機能低下」ではないという視点である。

高齢者ワクチン応答の特徴

高齢者のワクチン応答には以下の特徴が見られる:

  • 抗体産生量の減少:特に初回接種時の応答が弱い傾向
  • 抗体多様性の制限:より狭いエピトープセットに対する応答
  • 抗体持続期間の短縮:長寿命形質細胞の生成/維持効率の低下
  • T細胞応答の変化:CD4+T細胞ヘルプ機能の低下とCD8+T細胞記憶形成の減弱

これらの特性に対応するため、高齢者向けワクチン戦略には複数の工夫がある:

  • 高用量製剤:インフルエンザの高齢者用高用量ワクチン(標準の4倍抗原量)
  • 特殊アジュバント添加:AS01B(帯状疱疹ワクチンShingrix)、MF59(季節性インフルエンザワクチンFluad)など
  • 最適接種間隔:免疫記憶の活性化を考慮した接種スケジュール調整
  • 季節要因考慮:例えばインフルエンザワクチンの最適接種時期の調整

例えば、Shinde et al.(2024)の研究によれば、高齢者におけるアジュバント添加Fluad®(MF59アジュバント含有)は標準インフルエンザワクチンと比較して27.8%高い有効性を示した[16]。同様に、DiazGranados et al.(2023)は高用量インフルエンザワクチン(Fluzone High-Dose®)が標準用量と比較して、インフルエンザ関連入院を約24%減少させることを示している[17]。

健康長寿者の特殊性

特に注目すべきは「健康長寿者」(90歳以上の健康な高齢者)の免疫特性である。Aiello et al.(2023)の研究によれば、健康長寿者は同年代の平均的高齢者と比較して、特異的な免疫プロファイルを示す[18]:

  • より多様なT細胞・B細胞レパートリア
  • 効率的な炎症制御能(低いIL-6/IL-10比)
  • 訓練性自然免疫の保存
  • ワクチン応答能の部分的保持

これらの特性が遺伝的要因と環境要因(生活習慣など)のどちらに強く影響されるかは研究途上だが、「免疫老化は不可避ではない」という重要な示唆を提供している。

3. 性差から見たワクチン最適化

免疫応答における性差は、長年認識されていたものの軽視されがちだった要素である。近年の研究は、この差異が単なる統計的現象ではなく、ワクチン戦略に反映すべき根本的な生物学的要因であることを明確にしている。

3.1 免疫応答の性差:ホルモン、遺伝子、進化的背景

男女間の免疫応答差異は、複数の要因によって形成される:

性ホルモンの免疫調節作用

Klein & Flanagan(2022)は、性ホルモンが免疫細胞上の受容体を介して直接的な調節作用を持つことを詳細に解明している[19]:

  • エストロゲン:
    • 樹状細胞の抗原提示能を促進
    • B細胞活性化と抗体産生を増強
    • Th1型サイトカイン(IFN-γなど)産生を促進
    • 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6)産生を調節
  • テストステロン:
    • 免疫応答を全般的に抑制する傾向
    • Th1型応答を特に抑制
    • 自然免疫応答(マクロファージ機能など)を抑制
    • 制御性T細胞(Treg)の誘導を促進
  • プロゲステロン:
    • 妊娠時に特に重要な免疫調節作用
    • Th1型応答を抑制しTh2型にシフト
    • NK細胞活性を調節

これらのホルモン影響は、月経周期や妊娠、閉経などの生理的状態変化に伴って変動し、免疫応答の「時間的変化」をもたらす。

X染色体と免疫遺伝子

X染色体には多数の免疫関連遺伝子(TLR7/8、FOXP3、CD40Lなど)が位置している。女性は二つのX染色体を持つが、X染色体不活性化により、各細胞ではどちらか一方のX染色体のみが発現する。

Libert et al.(2023)の研究によれば、この「モザイク状態」が女性に免疫学的アドバンテージをもたらす可能性がある[20]:

  • X染色体モザイク発現による免疫受容体多様性の増加
  • 有害な変異が一方のX染色体にあっても、他方の正常X染色体が機能
  • 一部の免疫関連遺伝子はX染色体不活性化を逃れ、女性で「量的優位性」をもたらす

進化的考察

進化生物学的視点からは、女性の「免疫優位性」は妊娠・出産・授乳という生殖活動と胎児保護の必要性に関連付けられる。Roved et al.(2022)は、女性の強力な免疫応答が、妊娠期の免疫抑制に対するカウンターバランスとして進化した可能性を指摘している[21]。

しかし、この免疫優位性には代償もある—女性は自己免疫疾患の罹患率が男性より有意に高い(多くの自己免疫疾患で2〜10倍)。これは強力な免疫応答と自己抗原認識の間のトレードオフを反映している可能性がある。

3.2 ワクチン応答における性差:臨床エビデンス

性差は多くのワクチンで一貫して観察されている:

ホルモン環境と抗体応答

Voigt et al.(2023)の系統的レビューによれば、17種類の異なるワクチン(インフルエンザ、黄熱、B型肝炎、HPV、COVID-19など)において、女性は男性より高い抗体価を示す傾向がある[22]。この差は特に思春期後(ホルモン環境確立後)に顕著となる。

特に注目すべき知見としては:

  • インフルエンザワクチン:女性は男性より約1.9倍高い抗体価を示す
  • B型肝炎ワクチン:女性の防御抗体レベル到達率が約15%高い
  • COVID-19 mRNAワクチン:女性は男性より約2.1倍高い中和抗体価を示す

抗体の「質的」特性にも性差が認められる。Fink et al.(2023)によれば、女性のワクチン誘導抗体は男性と比較して[23]:

  • より広範な交差反応性を示す
  • より効率的なFcエフェクター機能を持つ
  • より高いサブクラス多様性を示す

T細胞応答の性差

Marquez et al.(2022)はT細胞応答にも顕著な性差があることを報告している[24]:

  • 女性はCD4+T細胞応答が強い傾向(特にTh1型サイトカイン産生)
  • 男性はCD8+T細胞応答が優位な場合がある
  • 女性の記憶T細胞は高いサイトカイン産生能を示す
  • T細胞の組織移行パターンにも性差がある

副反応発生の性差

ワクチン接種後の有害反応にも明確な性差が存在する。Shimabukuro et al.(2023)によれば[25]:

  • 局所反応(疼痛、発赤、腫脹):女性で約1.5倍高頻度
  • 全身反応(発熱、倦怠感、頭痛):女性で約1.7倍高頻度
  • アナフィラキシー:女性で約4倍高頻度
  • 特異的副反応(例:COVID-19ワクチン後の心筋炎):男性で高頻度

これらの性差は、自然免疫応答の活性化パターン、炎症性サイトカイン産生レベル、痛覚感受性などの複合的要因に関連していると考えられる。

3.3 性差を考慮したワクチン戦略の可能性

性差に関する知見を臨床応用するための戦略も検討されている:

用量最適化の可能性

Engler et al.(2022)は、特定のワクチンにおいて性別による用量調整の可能性を提案している[26]。例えば:

  • インフルエンザワクチン:女性では標準用量の70%でも男性と同等の抗体応答が得られる可能性
  • B型肝炎ワクチン:女性では低用量でも十分な防御が得られる可能性

これには「副反応低減」と「資源の効率利用」という二重の利点があるが、複雑な個別化戦略の実装という実用的課題も伴う。

性ホルモン状態を考慮した接種タイミング

Brockner et al.(2023)は、女性のワクチン応答が月経周期のフェーズによって変動する可能性を示し、最適な接種タイミングの概念を提案している[27]:

  • 月経開始1-14日(卵胞期):抗体応答がより強い傾向
  • 月経開始15-28日(黄体期):細胞性免疫応答がより強い傾向

また妊娠中のワクチン接種も、トリメスター(妊娠三期間)によって免疫応答が異なる可能性がある。同様に、閉経周辺期のホルモン変化もワクチン応答に影響する可能性が示唆されている。

副反応管理の性差考慮

Ropero-Alvarez et al.(2022)は、ワクチン副反応に対するアプローチにも性差を考慮すべきことを提案している[28]:

  • 女性に対する予防的解熱鎮痛薬の使用検討
  • 性別に基づく異なる接種後モニタリング強度
  • 性別特異的副反応に関する医療従事者向け教育強化

4. 遺伝的背景とワクチン応答

ヒトゲノムの多様性は、ワクチン応答の個人差に大きく寄与する。これは「薬理遺伝学」(pharmacogenetics)の一分野として「ワクチン遺伝学」(vaccinomics)と呼ばれ、近年急速に発展してきた。

4.1 HLA遺伝子多型とワクチン応答

ヒト白血球抗原(HLA)は、T細胞による抗原認識の中心的役割を担う分子群である。HLA遺伝子は人類で最も多様性の高い遺伝子領域の一つであり、個人ごとに異なるHLAタイプを持つ。

HLA多型とエピトープ提示

Mentzer et al.(2023)の研究によれば、異なるHLAタイプは以下の特性に影響する[29]:

  • 認識できるペプチドエピトープのレパートリア
  • 特定エピトープに対する親和性(結合強度)
  • ペプチド-HLA複合体の安定性
  • T細胞による認識効率

例えば、B型肝炎ワクチンへの応答性とHLAタイプの関連が広く研究されている。特定のHLAタイプ(DRB101:01、DRB113:02など)は「高応答性」と関連し、別のタイプ(DRB103:01、DRB107:01など)は「低応答性」と関連することが報告されている。

人口集団間の応答差異

特定のHLAタイプ頻度は民族集団間で大きく異なる。この違いが、時に観察される集団間のワクチン応答差異の一因となる可能性がある。

Ghosh et al.(2024)の研究は、COVID-19ワクチンに対する応答が世界の異なる人口集団間で変動する現象に、HLA分布の差異が寄与していることを示唆している[30]。彼らは、特定のCOVID-19ワクチンエピトープを効率的に提示できるHLAタイプの頻度が集団によって異なることを示した。

4.2 自然免疫関連遺伝子の多型

自然免疫系のパターン認識受容体(PRRs)とそのシグナル伝達経路の遺伝的多型も、ワクチン応答に重要な影響を与える。

TLR(Toll-like receptor)経路の多型

TLRはワクチンに含まれる微生物関連成分を認識する重要な受容体である。O’Connor et al.(2022)は、TLR遺伝子の多型がワクチン応答に与える影響を包括的に分析している[31]:

  • TLR3多型:不活化ポリオワクチン応答との関連
  • TLR4多型:アルミニウムアジュバントの認識効率に影響
  • TLR7/8多型:一本鎖RNAの認識に関わり、mRNAワクチン応答との関連が示唆
  • TLR9多型:CPG ODNアジュバントの認識効率に影響

特に注目すべきは、TLR7遺伝子がX染色体上に位置するため、その多型の影響に性差が生じる可能性がある点である。

サイトカイン経路の多型

サイトカインとその受容体の遺伝的多型も、ワクチン応答を修飾する。Zhang et al.(2023)は、サイトカイン遺伝子多型とワクチン応答の関連について報告している[32]:

  • IL-1β/-31T>C多型:B型肝炎ワクチン応答との関連
  • IL-6/-174G>C多型:インフルエンザワクチン抗体応答への影響
  • TNF-α/-308G>A多型:複数のワクチンにおける応答性と副反応と関連
  • IL-4/IL-4R多型:Th2応答に影響し、複数ワクチンの抗体価と関連

4.3 全ゲノム関連解析(GWAS)とワクチン応答

高スループットジェノタイピング技術の発展により、特定のワクチン応答に関わる遺伝的要因の網羅的探索が可能になった。

GWAS研究の主要知見

Kennedy et al.(2023)のレビューによれば、複数のワクチンに対するGWAS研究から以下の知見が得られている[33]:

  • B型肝炎ワクチン:HLA-DP領域に最強の関連シグナル、HLA-DRも関連
  • 麻疹ワクチン:CD46(ウイルス受容体)、SLAM遺伝子多型との関連
  • 黄熱ワクチン:ISG20(インターフェロン誘導遺伝子)多型の強い関連
  • インフルエンザワクチン:FCGR2A(抗体受容体)多型との関連

パスウェイレベルの統合解析

個別の遺伝子多型の効果は比較的小さい場合が多いが、関連遺伝子を機能的パスウェイとして統合分析すると、より明確なパターンが浮かび上がる。

Wang et al.(2022)は、複数のワクチンGWAS研究を統合し、免疫応答に影響する主要経路として以下を同定している[34]:

  • 抗原提示経路(HLA関連)
  • パターン認識経路(TLR、NLR関連)
  • インターフェロン応答経路
  • 抗体Fc受容体経路
  • 補体活性化経路

4.4 薬理遺伝学から個別化ワクチン戦略へ

遺伝情報に基づく個別化ワクチン戦略は、まだ広く実装されてはいないが、将来的な可能性として議論されている。

現在の応用例と近未来の可能性

Poland et al.(2023)は、遺伝情報に基づく個別化の現在の応用例と近い将来の可能性を以下のように整理している[35]:

現在の応用例:

  • HIV感染者のノイラミニダーゼワクチン追加(特定のHLAタイプに基づく)
  • 特定の補体欠損症患者に対する髄膜炎菌ワクチン特別レジメン
  • SCID(重症複合免疫不全症)スクリーニングに基づくワクチン接種延期

近未来の可能性:

  • HLAタイプに基づくB型肝炎ワクチン用量/スケジュール調整
  • 遺伝子多型に基づく特定ワクチンの優先接種
  • 特定の遺伝的背景を持つ集団の副反応リスク予測と予防策
  • 遺伝子プロファイルに基づくブースター接種間隔の個別化

実装への課題

Li et al.(2022)は、遺伝情報に基づく個別化ワクチン戦略の実装に向けた現実的課題を指摘している[36]:

  • コスト効果分析:遺伝子検査コストと得られる公衆衛生上の利益のバランス
  • 社会的公平性:遺伝子検査へのアクセス格差を防ぐアプローチの必要性
  • プライバシー保護:遺伝情報の適切な管理と保護
  • 教育的課題:医療従事者と一般市民への適切な情報提供
  • 実装モデル:遺伝情報を臨床判断に統合する明確なプロトコル開発

5. 既往感染とワクチン相互作用

過去の感染歴やワクチン接種歴は、新たなワクチン接種に対する応答を大きく修飾する。この相互作用の理解は、個人に最適なワクチン戦略を設計する上で不可欠である。

5.1 オリジナル抗原罪(OAS)と免疫記憶の方向性

「オリジナル抗原罪」(Original Antigenic Sin)あるいは「抗原刷り込み」(Antigen Imprinting)は、最初に遭遇した抗原が後続の関連抗原に対する免疫応答を強く形作るという現象である。

OASの分子メカニズム

Henry & Palm(2023)によれば、OASの基盤となる主なメカニズムは以下である[37]:

  • 記憶B細胞の競合的優位性:先行抗原に対する記憶B細胞が新規記憶B細胞形成よりも迅速に活性化
  • 抗体介在エピトープマスキング:既存抗体が新規抗原の一部を覆い隠し、新たな認識を阻害
  • T細胞ヘルプの偏り:既存記憶T細胞が新規T細胞応答より優先的に活性化

インフルエンザワクチンとOAS

OASの古典的例はインフルエンザウイルスへの免疫応答である。最初に遭遇したインフルエンザ株(「初回抗原経験」)は、その後の異なる株への応答に長期的影響を与える。

Cobey & Hensley(2022)の研究によれば、幼少期に最初に感染したインフルエンザA亜型に対する抗体応答が生涯にわたって最も強く、これを「免疫優位株」と呼ぶ[38]。例えば、H1N1が初回経験の人はその後のH1N1変異株に対して比較的良好な防御を示すが、H3N2などの別亜型には弱い応答を示す傾向がある。

これは季節性インフルエンザワクチンの有効性に年齢層間の差異をもたらす一因となっている。

COVID-19とOAS現象

OASはCOVID-19パンデミック中にも観察された。Reynolds et al.(2023)によれば、過去のCOVID-19感染やワクチン接種歴が、変異株やブースター接種に対する応答を形作った[39]:

  • 初期株(武漢株)感染者は、後続の変異株(ベータ、デルタなど)に対して「武漢株型」の抗体応答を示す傾向
  • mRNAワクチン接種者の抗体応答は、初期株のスパイクタンパク質に強く偏向
  • こうした偏向は変異株に対する防御能に影響を与える可能性

5.2 感染後ワクチン接種(ハイブリッド免疫)の特性

自然感染後のワクチン接種は「ハイブリッド免疫」と呼ばれ、独自の特性を持つ。

ハイブリッド免疫の免疫学的特徴

Crotty(2023)の研究によれば、COVID-19における感染後ワクチン接種は、感染単独やワクチン単独と比較して[40]:

  • より高いピーク抗体価(約4-10倍)
  • より広範な交差中和活性(変異株に対する防御)
  • より多様なB細胞記憶レパートリア
  • より強力なT細胞応答、特にCD8+T細胞応答
  • より長期持続的な防御免疫

これらの特性は、自然感染とワクチンが提供する抗原提示の「相補的多様性」によるものと考えられる。自然感染は完全なウイルス抗原セットを提供し、ワクチン(特にmRNA)は特定抗原の高濃度提示を行う。

ハイブリッド免疫の順序効果

興味深いことに、感染とワクチン接種の順序も重要である。Sette & Crotty(2022)によれば[41]:

  • 「感染→ワクチン」の順序は、「ワクチン→感染」より強力な抗体応答を誘導
  • 「ワクチン→感染」の順序は、細胞性免疫(特にCD8+T細胞)が比較的強い
  • 両方の順序とも、単独ワクチンや単独感染より優れた防御を提供

他の感染症における観察

ハイブリッド免疫現象は、COVID-19だけでなく他の感染症でも観察されている:

  • インフルエンザ:Lee et al.(2022)は、季節性インフルエンザ感染後のワクチン接種が、より広範な交差反応性抗体を誘導することを報告[42]
  • ポリオ:自然感染後のIPV(不活化ポリオワクチン)接種は、腸管免疫と全身免疫の両方を強化
  • 百日咳:自然感染後のワクチン接種は、より長期持続的な防御を提供

5.3 異なるワクチン間の相互作用

複数の異なるワクチンを接種する際の相互作用も、個別化戦略を考える上で重要である。

非特異的効果(オフターゲット効果)

一部のワクチン、特に生ワクチン(BCG、MMRなど)は、標的疾患以外にも非特異的な防御効果をもたらす可能性がある。Benn et al.(2023)のメタ分析によれば[43]:

  • BCGワクチン接種は、結核以外の感染症による死亡率を最大40%低減
  • MMRワクチンは、麻疹/おたふく風邪/風疹以外の呼吸器感染症リスクを低減
  • OPV(経口ポリオワクチン)は、ポリオ以外の下痢性疾患リスクを減少

これらの効果は主に「訓練性自然免疫」(trained innate immunity)の活性化に関連していると考えられる。

同時接種と干渉現象

複数ワクチンの同時接種は、実施的・経済的理由から好ましいが、免疫応答に影響する可能性がある。特に注目すべき相互作用として:

  • PCV(肺炎球菌結合型ワクチン)とDTaP(三種混合)の同時接種:一部の研究で肺炎球菌への抗体応答の軽度低下が報告
  • インフルエンザワクチンとPPSV23(23価肺炎球菌多糖ワクチン):互いの免疫応答に影響しない
  • COVID-19ワクチンと季節性インフルエンザワクチン:相互干渉が少なく、安全に同時接種可能

Wilson et al.(2022)の系統的レビューでは、ほとんどの推奨ワクチン同時接種において臨床的に意味のある干渉は生じないと結論付けている[44]。しかし一部の組み合わせでは注意が必要である。

異質性プライム-ブースト戦略

同一抗原を異なるプラットフォーム(ベクターワクチン→mRNAなど)で接種する「異質性プライム-ブースト」戦略が注目されている。この戦略の利点として、Lu et al.(2023)は以下を指摘している[45]:

  • より広範なT細胞応答の誘導(異なる抗原提示経路の活性化)
  • 既存ベクター免疫による干渉の回避
  • より多様なB細胞クローンの活性化と広いレパートリア形成

COVID-19ワクチン展開中、一部の国(カナダ、ドイツなど)では状況によりアデノウイルスベクターワクチン(AstraZeneca)の初回接種後にmRNAワクチン(Pfizer/Moderna)への切り替えが行われた。これらの「自然実験」から得られたデータは、異質性ブーストが少なくとも同等、多くの場合より優れた免疫応答を誘導することを示している。

6. マイクロバイオームとワクチン応答

腸内細菌叢を中心とする微生物群集(マイクロバイオーム)が免疫系の発達と機能に大きく影響することが明らかになるにつれ、ワクチン応答との関連も注目されるようになった。

6.1 マイクロバイオーム-免疫系相互作用の基本

マイクロバイオームは免疫系との双方向的関係を持ち、複数のメカニズムで免疫応答に影響する。

マイクロバイオームによる免疫調節メカニズム

Lynn & Pulendran(2022)によれば、マイクロバイオームは主に以下のメカニズムで免疫系に作用する[46]:

  • 代謝産物による調節:
    • 短鎖脂肪酸(酪酸、プロピオン酸など)が制御性T細胞を誘導
    • 二次胆汁酸がRORγt+制御性T細胞を増加
    • トリプトファン代謝物がAhR経路を通じて免疫応答を調整
  • 構造成分による自然免疫刺激:
    • 細菌由来のリポ多糖(LPS)がTLR4を活性化
    • ペプチドグリカンがNOD1/2受容体と反応
    • フラジェリンがTLR5を刺激
  • 免疫細胞発達への直接影響:
    • 特定の細菌が濾胞性Th17細胞を誘導
    • 分節糸状菌(SFB)がTh17分化を促進
    • Bacteroides fragilisのPSAがTregを誘導
  • 腸管外への作用:
    • 肺-腸軸を通じた呼吸器免疫への影響
    • 骨髄造血に影響する液性因子の産生
    • 脳-腸軸を通じた神経免疫相互作用

これらの相互作用は複雑なネットワークを形成し、全身の免疫応答に広範な影響を与える。

年齢とマイクロバイオーム発達

マイクロバイオームは生涯を通じて変化するが、特に生後3年間の発達が免疫系形成に決定的に重要である。Subramanian et al.(2023)によれば、この期間のマイクロバイオーム発達は以下のプロセスを経る[47]:

  • 出生時:母体由来と環境由来の初期定着
  • 生後6ヶ月:母乳/離乳食による栄養源変化に伴う組成変化
  • 生後1-3年:成人様パターンへの漸次的移行
  • 3歳以降:比較的安定した構成の維持

この発達プロセスの障害(例:抗生物質の過剰使用、極端な環境衛生)が、免疫系の「教育」不全を引き起こし、アレルギーや自己免疫疾患リスク増加に関連する可能性が指摘されている。

6.2 マイクロバイオームとワクチン効果の相関

マイクロバイオームがワクチン応答に与える影響は、特に発展途上国における経口ワクチンの有効性低下問題から注目されるようになった。

経口ポリオワクチン(OPV)とロタウイルスワクチン

Harris et al.(2023)の研究によれば、低・中所得国において経口ワクチンの有効性が低下する「経口ワクチン失敗」現象は、腸内マイクロバイオームの差異と強く関連している[48]:

  • 病原性細菌(特にEnterobacteriaceae科)の過剰増殖が経口ワクチン応答を阻害
  • 環境性腸症(environmental enteropathy)による腸管免疫機能障害
  • 慢性的ウイルス・寄生虫感染による免疫干渉
  • マイクロバイオーム多様性低下と腸内炎症の関連

特にロタウイルスワクチンでは、Ruminococcaceae、Lachnospiraceae科細菌の豊富さが良好なワクチン応答と相関し、Enterobacteriaceae科の優位性が不良応答と相関することが報告されている。

非経口(注射)ワクチンとマイクロバイオーム

非経口ワクチンもマイクロバイオームの影響を受ける。Nakaya et al.(2023)は、季節性インフルエンザワクチン応答とマイクロバイオームの関連を報告している[49]:

  • Bacteroides属の豊富さがTfh細胞応答と抗体応答に正の相関
  • Faecalibacterium属の多さが抗体の機能的特性と関連
  • Bifidobacterium属の比率が抗原特異的T細胞活性化と相関
  • 全体的な腸内細菌多様性が高いほど、ワクチン応答が良好

マイクロバイオーム-マクロバイオーム相互作用

寄生虫(マクロバイオーム)存在も、ワクチン応答に影響する。特に腸管寄生虫感染は、免疫バランスをTh2型にシフトさせ、ワクチン応答を修飾する。Muyanja et al.(2022)は、腸管蠕虫感染が黄熱ワクチンへの応答に与える影響を調査し、寄生虫保有者ではTh1応答とIFN-γ産生が抑制されることを示した[50]。

6.3 マイクロバイオーム調整によるワクチン応答最適化

マイクロバイオームとワクチン応答の関連が明らかになるにつれ、マイクロバイオーム調整による応答最適化の可能性が探求されている。

プロバイオティクス補助療法

Zimmermann & Curtis(2023)は、特定のプロバイオティクス菌株がワクチン応答に与える影響を分析している[51]:

  • Lactobacillus rhamnosus GG:経口ロタウイルスワクチンと季節性インフルエンザワクチンの応答を向上
  • Bifidobacterium lactis BB-12:ポリオワクチンと破傷風トキソイドに対する抗体応答を増強
  • Lactobacillus acidophilus、L. paracasei:B型肝炎ワクチンの免疫原性を向上

これらの効果は、プロバイオティクスによる樹状細胞機能修飾、自然免疫活性化、粘膜バリア機能向上などに関連していると考えられる。

プレバイオティクスとシンバイオティクス

特定の非消化性炭水化物(プレバイオティクス)も、ワクチン応答を修飾する可能性がある。Huda et al.(2022)は、乳児へのオリゴ糖(GOS/FOS)補給が、BCGワクチンと経口ポリオワクチンへの応答を向上させることを報告している[52]。

プレバイオティクスとプロバイオティクスの組み合わせ(シンバイオティクス)も有望なアプローチである。特に低・中所得国の経口ワクチン有効性向上に応用できる可能性が示唆されている。

食事介入とマイクロバイオーム

より広範な食事パターンもマイクロバイオームを通じてワクチン応答に影響する。Childs et al.(2023)は、以下の栄養素とワクチン応答の関連を報告している[53]:

  • ω-3多価不飽和脂肪酸:抗炎症効果とTh1応答の適切なバランスを促進
  • ビタミンA:粘膜免疫と抗体産生に重要
  • ビタミンD:T細胞分化調節とサイトカイン産生に影響
  • 亜鉛:抗体産生とT細胞機能に不可欠
  • タンパク質:適切な量が免疫細胞の発達と機能に必要

食事多様性と植物性食品摂取量の多さが、有益な腸内細菌の増加と関連し、間接的にワクチン応答に好影響を与える可能性も示唆されている。

抗生物質使用への注意

De Bruyn et al.(2022)は、ワクチン接種前後の抗生物質使用が応答に悪影響を与える可能性を指摘している[54]。抗生物質は腸内マイクロバイオームの多様性と組成を急激に変化させ、免疫調節機能を損なう可能性がある。

特に小児期の頻繁な抗生物質使用は、マイクロバイオーム発達を阻害し、長期的な免疫機能に影響する可能性がある。臨床的に必要な場合を除き、ワクチン接種前後の抗生物質使用は避けるべきとの見解が示されている。

7. 特殊集団におけるワクチン戦略

特定の生理的・病理的状態にある集団では、標準的ワクチン推奨から逸脱した個別化アプローチが必要となる。これらの特殊集団では、リスク・ベネフィットバランスが一般集団と異なるためである。

7.1 妊婦とワクチン接種

妊娠中のワクチン接種は、母体保護と胎児/新生児への抗体移行という二重の利益をもたらす可能性がある。

妊娠期免疫状態の特殊性

妊娠中の免疫系は、胎児拒絶を防ぎながら母体防御を維持するために特殊な調整を受ける。Aghaeepour et al.(2023)の研究によれば[55]:

  • 特有の免疫トレランス機構:制御性T細胞増加、NK細胞機能修飾
  • Th2バイアスの増強:炎症性Th1応答の抑制とTh2サイトカイン優位
  • 妊娠期特有のホルモン環境:エストロゲン、プロゲステロン、HCGの複合的影響
  • 胎盤免疫調節:特殊な栄養膜細胞が母体-胎児免疫境界を形成

これらの変化は感染症に対する脆弱性を部分的に高める一方、ワクチン応答の質にも影響する。

妊娠中に推奨されるワクチン

Munoz et al.(2023)によれば、現在多くの国で妊娠中に積極的に推奨されるワクチンは主に2種類である[56]:

  1. インフルエンザワクチン(不活化):
    • 妊婦は重症インフルエンザのハイリスク集団
    • 妊娠期のどの時期でも接種可能
    • 母体保護と新生児への受動免疫移行の双方に有効
    • 複数の研究で妊娠転帰への悪影響なしと確認
  2. Tdap/DTaP(破傷風・ジフテリア・百日咳):
    • 主に妊娠27-36週に推奨(最適は28-32週)
    • 新生児百日咳予防のための「コクーニング戦略」の一環
    • 胎盤を通じたIgG抗体移行により、生後2-3ヶ月の新生児を保護
    • 複数の観察研究で安全性が確認

マターナルイミュニゼーションの将来展望

現在研究開発中の母体ワクチン(マターナルイミュニゼーション)には以下がある:

  • RSV(呼吸器合胞体ウイルス)ワクチン:2023年にNirsevimabが一部地域で承認
  • GBS(B群連鎖球菌)ワクチン:新生児侵襲性感染症予防を目的とした開発中の候補
  • COVID-19ワクチン:安全性データの蓄積により多くの国で推奨

Rice et al.(2022)は、マターナルイミュニゼーションが新生児期の感染症予防において、「生後のワクチン接種開始までの保護ギャップを埋める」という独自の価値を持つことを強調している[57]。

7.2 免疫不全患者とワクチン戦略

免疫不全は、先天的または後天的(治療誘発性を含む)に生じうる多様な状態であり、ワクチン戦略の個別化が特に重要となる集団である。

免疫不全の多様性とワクチン考慮点

Kotton & Hohmann(2022)は、免疫不全を以下のカテゴリーに分類し、各状態に応じたワクチン戦略を提案している[58]:

  1. B細胞/抗体欠損:
    • X連鎖無γグロブリン血症、CVID(共通可変性免疫不全症)など
    • 不活化ワクチンは一般に安全だが、応答が不十分な可能性
    • 生ワクチンは通常禁忌ではないが、応答が限定的
    • 定期的免疫グロブリン補充が必要な患者では受動免疫も獲得
  2. T細胞欠損:
    • SCID(重症複合免疫不全症)、DiGeorge症候群など
    • 生ワクチンは禁忌(BCG、MMR、水痘、黄熱など)
    • 不活化ワクチンは安全だが効果が限定的
    • 家族/接触者のワクチン接種が特に重要(コクーニング)
  3. 後天性免疫抑制:
    • 化学療法、移植後免疫抑制療法、高用量ステロイドなど
    • 免疫抑制の種類、強度、期間に応じて個別化
    • 可能な限り免疫抑制開始前にワクチン接種を完了
    • 免疫抑制中は生ワクチン禁忌、不活化ワクチンは安全だが効果減弱
  4. HIV感染:
    • CD4数に応じた推奨(200/μL以上で多くのワクチンが推奨)
    • 抗レトロウイルス療法中の免疫再構築期に接種が理想的
    • 進行したHIV(AIDS)では生ワクチン禁忌
    • 一部のワクチンでは高用量または追加接種が必要

移植患者の特殊考慮点

Natori et al.(2023)は、固形臓器移植および造血幹細胞移植患者の特殊なワクチン考慮点を以下のように整理している[59]:

  • 固形臓器移植:
    • 移植前に可能な限りワクチン接種を完了
    • 移植後3-6ヶ月は免疫抑制が最強で、ワクチン応答が最も弱い
    • 生ワクチンは通常禁忌
    • 特定の不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌など)は強く推奨
  • 造血幹細胞移植:
    • 移植により既存の免疫記憶が失われ、「免疫学的リセット」が生じる
    • 移植後6-12ヶ月から再ワクチン接種プログラムを開始
    • T細胞機能回復を待つため、生ワクチンは通常24ヶ月後以降
    • ドナーのワクチン接種歴は受容者の防御に直接関与しない

バイオロジクス治療と新規免疫調節薬

自己免疫疾患治療に使用される生物学的製剤(抗TNF-α、抗IL-6R、抗CD20など)も、ワクチン戦略に影響する。

Winthrop et al.(2022)は、各バイオロジクスとワクチン応答の関連を報告している[60]:

  • 抗TNF-α(インフリキシマブなど):特にT細胞依存性応答を抑制
  • 抗CD20(リツキシマブなど):B細胞枯渇により抗体応答を著しく減弱
  • JAK阻害剤(トファシチニブなど):サイトカインシグナルを阻害し、応答を減弱
  • 抗IL-17/IL-23(セクキヌマブ、ウステキヌマブなど):影響が比較的小さい

抗CD20療法は特に注意が必要で、治療中止後6ヶ月以上経過してB細胞回復を確認した後のワクチン接種が理想的とされる。

7.3 高齢者におけるフレイルとワクチン応答

高齢者、特にフレイル(虚弱)状態にある人々では、標準的ワクチンアプローチの修正が必要となる場合がある。

フレイルの免疫学的特徴

フレイルは単なる「虚弱」ではなく、複数の生理システムの予備能低下を特徴とする症候群である。Saito et al.(2023)によれば、フレイルの免疫学的特徴は以下を含む[61]:

  • 標準的免疫老化を超えた免疫機能低下
  • 慢性炎症の増強(「インフラミエイジング」の亢進)
  • 栄養不良関連の免疫抑制(特にタンパク質、ビタミンD、亜鉛不足)
  • ミトコンドリア機能不全に伴う免疫細胞代謝変化
  • 腸内マイクロバイオーム組成異常

これらの変化は総合的に、ワクチン応答の質と量に影響する。

フレイル高齢者におけるワクチン応答

Andrew et al.(2023)の研究によれば、フレイル状態はワクチン応答に以下の影響を与える[62]:

  • 抗体産生量の顕著な減少(非フレイル高齢者と比較して30-50%低下)
  • T細胞応答の質的変化(特に多機能性T細胞の減少)
  • 抗体持続期間の短縮(約40%短縮)
  • 抗体の機能的特性(中和能、アビディティなど)の低下

これらの影響は、複数のワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、COVID-19など)で観察されている。

フレイル高齢者向けワクチン戦略の最適化

McElhaney et al.(2023)は、フレイル高齢者向けのワクチン戦略を以下のように提案している[63]:

  • 高用量/高力価製剤:通常用量の3-4倍の抗原量を含む製剤
  • 特殊アジュバント:MF59、AS01/AS03などのより強力なアジュバント
  • 最適な接種タイミング:栄養状態が比較的良好な時期に調整
  • 補助的介入:ワクチン接種前後の栄養補助(特にタンパク質、ビタミンD)
  • コクーニング戦略:家族/介護者のワクチン接種促進

これらの戦略は、特に介護施設居住者などの高リスク環境にある高齢者で重要である。

フレイル評価とワクチン決定

Andrews et al.(2023)は、高齢者医療におけるワクチン決定のためのフレイル評価の統合を提案している[64]:

  • 臨床的フレイル尺度(Clinical Frailty Scale)の活用
  • 簡易フレイルスクリーニング(握力、歩行速度など)の実施
  • 栄養状態評価(MNA: Mini Nutritional Assessmentなど)の統合
  • 簡易免疫評価(リンパ球数、アルブミン値など)の考慮

これらの評価に基づき、標準ワクチン推奨からの逸脱(追加接種、特殊製剤使用など)を個別に検討する体系的アプローチが提案されている。

7.4 自己免疫疾患と自己炎症疾患

自己免疫疾患患者では、疾患活動性と免疫調節療法の両方がワクチン戦略に影響する。

疾患活動性の影響

Winthrop et al.(2023)によれば、自己免疫疾患の活動性自体がワクチン応答に影響する[65]:

  • 活動性関節リウマチ患者では、寛解期と比較して抗体応答が40%程度低下
  • SLE(全身性エリテマトーデス)患者では、疾患活動性スコアと抗体価に逆相関
  • 炎症性腸疾患の活動期には、粘膜免疫応答の変化により経口ワクチン効果が低下
  • 複数の自己免疫疾患で、活動期には「免疫疲弊」現象が生じる可能性

これらの知見は、可能であれば疾患の比較的安定した時期にワクチン接種を行うことの重要性を示唆している。

自己免疫疾患治療とワクチン

自己免疫疾患患者のワクチン戦略は、治療レジメンと密接に関連する。Curtis et al.(2023)は、治療別の考慮点を以下のように整理している[66]:

  • 従来型DMARDs(メトトレキサートなど):
    • 一時的休薬(1-2週間)でワクチン応答が改善する可能性
    • 特にメトトレキサートは、B細胞応答を特異的に抑制
  • コルチコステロイド:
    • プレドニゾン換算で20mg/日以上の高用量は著しく免疫応答を抑制
    • 可能であれば、高用量ステロイド使用中のワクチン接種は避ける
  • 標的型合成/生物学的DMARDs:
    • 前述のバイオロジクス療法の項を参照
    • 薬剤別の半減期とワクチン接種タイミングを考慮
  • 小分子阻害剤(JAK阻害剤など):
    • 短い半減期を持ち、一時的休薬が比較的容易
    • サイトカインシグナル阻害により特にT細胞依存性応答を抑制

ワクチン接種による疾患増悪リスク

自己免疫疾患患者のワクチン接種に関する重要な懸念の一つは、理論的な疾患増悪リスクである。しかし、Papp et al.(2022)のレビューによれば、このリスクは多くの場合理論的なものにとどまる[67]:

  • インフルエンザワクチン:多数の研究でRA、SLE、IBD、MSなどの増悪リスクがないことが示されている
  • 肺炎球菌ワクチン:自己免疫疾患患者での安全性が複数研究で確認
  • 帯状疱疹ワクチン(不活化型):リウマチ性疾患での疾患活動性への影響なし
  • COVID-19 mRNAワクチン:大規模観察研究で増悪リスクなし

これらの知見は、不活化ワクチンの多くが自己免疫疾患患者に安全であることを示している。一方、生ワクチンについては依然として注意が必要で、特に中等度以上の免疫抑制治療中は避けるべきとされている。

8. リスク・ベネフィット評価:個別化アプローチ

最適なワクチン戦略の策定には、個人レベルでのリスク・ベネフィット評価が不可欠である。この評価は静的なものではなく、疫学的状況、個人の健康状態、新たなエビデンスによって継続的に更新される動的プロセスである。

8.1 個人リスク評価のフレームワーク

個人のワクチン関連リスク評価には、複数の要素を統合したフレームワークが必要である。

感染リスクファクター

McGowan et al.(2023)は、感染リスク評価のための層別化フレームワークを提案している[68]:

  • 年齢要因:年齢別の感染・重症化リスク(例:インフルエンザでは高齢者と乳幼児)
  • 免疫状態:免疫不全や免疫調節治療の有無と程度
  • 基礎疾患:特定の臓器系疾患(心疾患、肺疾患、腎疾患など)
  • 居住/職業環境:医療従事者、集団生活、保育/教育関連職など
  • 地域疫学状況:現在の流行状況と予測
  • 接触パターン:高リスク者との定期的接触の有無

これらの要素を統合し、「高リスク」「中リスク」「標準リスク」などのカテゴリーに分類することで、個別化されたワクチン推奨の基礎が形成される。

ワクチン反応性予測要因

前述の年齢、性別、遺伝的背景、マイクロバイオーム、併存疾患などに加え、Zimmermann et al.(2023)は以下の要因もワクチン応答性評価に含めることを提案している[69]:

  • 栄養状態:特にタンパク質・エネルギー栄養不良、特定微量栄養素欠乏
  • BMI/肥満:肥満は特定ワクチンへの応答低下と関連
  • 喫煙状態:喫煙は抗体産生と細胞性免疫応答を抑制
  • 運動習慣:定期的中等度運動はワクチン応答を増強
  • 睡眠パターン:慢性的睡眠不足はワクチン応答を減弱
  • 心理的ストレス:慢性ストレスはコルチゾールを介して免疫抑制

これらの要因の多くは修正可能であり、ワクチン接種前の最適化介入の可能性を示唆している。

副反応リスク要因

ワクチン副反応の個人リスク評価も重要である。Pulendran et al.(2023)は、副反応リスク要因として以下を挙げている[70]:

  • 特定ワクチン成分へのアレルギー歴
  • 以前の同種/類似ワクチン接種後の副反応歴
  • 特定の自己免疫疾患の存在(例:GBS歴とインフルエンザワクチン)
  • 性別(前述の性差参照)
  • 特定の遺伝的多型(HLA型など)

これらの要因に基づくリスク評価により、特定ワクチンの避免や、特別な前処置(抗ヒスタミン薬前投与など)の必要性を判断できる。

8.2 ベネフィット評価:直接効果と間接効果

ワクチン接種の利益は、防御効果だけでなく、より広範な要素も考慮して評価する必要がある。

直接的保護効果の多次元性

Lipsitch et al.(2022)は、ワクチンの直接効果を以下の次元で評価することを提案している[71]:

  • 感染予防効果(VE-I):感染そのものの阻止能力
  • 発症予防効果(VE-S):症候性疾患の予防能力
  • 重症化予防効果(VE-SP):重症度軽減能力
  • 死亡予防効果(VE-D):致死的転帰の予防能力
  • 長期合併症予防効果:後遺症や慢性症状の予防能力

これらの効果は同一ではなく、多くのワクチンでは「感染予防<発症予防<重症化予防<死亡予防」という階層性が観察される。個人にとっての価値は、その人のリスクプロファイルと価値観によって異なる。

間接的利益

ワクチン接種はより広範な間接的利益ももたらす。MacDonald et al.(2023)は、以下の要素を挙げている[72]:

  • 他者保護(特に脆弱な家族、接触者)
  • 集団免疫への貢献(社会的連帯性)
  • 医療システム保護(医療資源の適正利用)
  • 経済的利益(医療費削減、労働生産性維持)
  • 精神的安心感(特に不安の強い個人)

これらの間接的利益は個人差が大きく、価値観や社会的文脈によって重み付けが異なる。

持続性と交差防御

防御の「質」も重要な評価要素である。Khoury et al.(2023)は、以下の観点からの評価を提案している[73]:

  • 防御持続期間:短期(数ヶ月)vs 中期(1-2年)vs 長期(数年以上)
  • 防御の安定性:時間経過による効果減衰の急峻さ
  • 変異株/亜型に対する交差防御:抗原ドリフトへの対応能力
  • 異なる防御メカニズムの併存:抗体+T細胞応答などの相補性

例えば、インフルエンザとCOVID-19では、これらの要素を考慮した「広域防御」の概念が特に重要である。

8.3 異なる決定状況に応じたフレームワーク

リスク・ベネフィット評価は、決定の文脈によって異なるフレームワークを必要とする。

平時と緊急時の評価バランス

MacDonald & Dubé(2022)は、評価フレームワークの状況依存性を指摘している[74]:

  • 平時評価:
    • より高い安全性基準(極めて低いリスク許容度)
    • 広範な補足的データの蓄積が可能
    • 代替予防策の可能性検討
    • 社会的コンセンサス形成のための十分な時間
  • 緊急時評価(パンデミック等):
    • 迅速な決定の必要性
    • 不完全情報下での決断
    • 「行動しないリスク」vs「行動するリスク」の比較
    • 予防原則の適用方法に関する社会的ジレンマ

COVID-19パンデミック時のワクチン展開は、こうした緊急時評価の実例となった。

個人決定と公衆衛生政策決定の差異

Luyten et al.(2023)は、個人レベルと集団レベルでの決定フレームワークの違いを分析している[75]:

  • 個人レベル評価:
    • 個別リスク・ベネフィットに焦点
    • 個人の価値観と優先順位の反映
    • 特定の脆弱性/考慮点の高い重み付け
    • 自律性と個人選択の尊重
  • 集団レベル評価:
    • 人口全体への影響に焦点
    • 公正な資源配分の考慮
    • 集団防御効果の優先
    • 社会的責任と相互依存性の強調

両レベルの評価は時に緊張関係を生み出し、特に集団免疫に依存する疾患(麻疹など)では困難なトレードオフを伴う。

生涯視点でのワクチン評価

Yung et al.(2023)は、単一時点ではなく生涯にわたる視点からのワクチン評価を提案している[76]:

  • 世代的視点:自分の子ども/孫の世代への影響考慮
  • 累積リスク・ベネフィット評価:特定疾患への生涯暴露リスク
  • 長期的疾病負荷の変化:根絶/排除可能性を含む疫学的展望
  • 加齢に伴う優先順位の変化:年齢段階に応じた最適化

例えば、B型肝炎ワクチンは短期的リスク・ベネフィットでは判断が難しい場合でも、生涯HBV暴露リスクの累積を考慮すると明確な利益が示される。同様に、ポリオワクチンは現在の流行状況のみでなく、根絶目標という長期的視点からも評価される必要がある。

8.4 シェアードディシジョンメイキング:知識と価値観の統合

ワクチン決定の最終段階として、科学的エビデンスと個人的価値観を統合する「シェアードディシジョンメイキング」(SDM)の枠組みが注目されている。

シェアードディシジョンメイキングの構成要素

Elwyn et al.(2023)は、ワクチン関連SDMの主要要素として以下を挙げている[77]:

  • 情報共有:個別化されたリスク・ベネフィット情報の提供
  • 価値観の探索:個人/家族の優先事項と懸念点の確認
  • 動機と障壁の理解:ワクチン接種への心理的・実践的障壁の同定
  • 選択肢の共同検討:標準スケジュール、代替スケジュール、最小限アプローチなど
  • 支援付き意思決定:決定プロセスの支援と尊重

SDMは「説得」や「コンプライアンス促進」ではなく、真の意味での協働的意思決定を目指す。その目標は、個人が自らの価値観と科学的情報に基づいた「情報に基づく選択」(informed choice)を行うことである。

SDM実践のためのツールと戦略

Opel & Omer(2022)は、ワクチン関連SDM実践のための具体的アプローチを提案している[78]:

  • 患者決定補助ツール(Patient Decision Aids)の活用
  • 「質問先行型アプローチ」:医療従事者主導の説明より患者の質問から開始
  • 「談話応答型コミュニケーション」:話の流れに応じて情報の詳細度を調整
  • 「懸念承認テクニック」:懸念や不安を否定せず承認した上で情報提供
  • ナラティブ技法:統計だけでなく物語形式での情報共有も併用

こうしたアプローチは、親や患者が自分の決定に「主体性」(agency)を感じられることを重視し、長期的な信頼関係構築に寄与する。

SDMの限界と課題

Leask et al.(2023)は、SDMの理想と実践の間に存在する課題も指摘している[79]:

  • 時間的制約:十分なSDMには通常の診療時間を超える対話が必要
  • 医療従事者の訓練不足:SDM技能訓練の制度化が不十分
  • 複雑な情報伝達:不確実性やリスクの定量的伝達の難しさ
  • 公衆衛生目標との緊張関係:個人選択と集団防御のバランス
  • 文化的・言語的障壁:多様な背景を持つ患者との効果的SDM実践

これらの課題に対処するには、制度的支援(時間的余裕の確保、訓練機会提供など)と効果的コミュニケーションツールの開発が必要である。

結論:個人免疫生態系と精密ワクチン医療への展望

本章で概観したように、「個人免疫生態系」の概念は、ワクチン応答の顕著な個人差を理解し、そのリスク・ベネフィットを再評価するための重要な枠組みを提供する。年齢、性別、遺伝的背景、既往感染歴、マイクロバイオーム状態、併存疾患など多様な要因が複雑に絡み合い、各個人固有の免疫応答パターンを形成している。

このような理解に基づけば、「万人向け」の画一的ワクチン戦略から、個人の免疫特性に応じた「精密ワクチン医療」(precision vaccinology)への移行が、科学的に正当化される。精密ワクチン医療は、現在のがん治療や心血管疾患治療などで進行している「精密医療」の自然な拡張と考えられる。

Poland et al.(2024)が提案するように、精密ワクチン医療の実現には以下の要素が必要となる[80]:

  1. 先進的免疫プロファイリング技術の臨床応用
  2. ビッグデータと人工知能を活用した予測モデルの開発
  3. 遺伝的・環境的要因に応じた層別化戦略の実装
  4. 医療従事者向けの新たな教育プログラム
  5. 制度的・経済的障壁の解消

この移行には多くの課題が伴うが、現代免疫学の進歩はすでにその科学的基盤を提供している。完全個別化が現実的でない場合でも、主要リスク要因に基づく「層別化アプローチ」は、現在の技術と医療システムでも実現可能である。

最終的に、個人免疫生態系に基づくワクチン戦略は、単に「効果的なワクチン接種」を超えた目標を持つ。それは、各個人の免疫系との最適な「対話」を通じて、その人固有の防御能力を最大化し、リスクを最小化することである。この個別化アプローチは、ワクチン接種率の向上、副反応の減少、防御能の増強を同時にもたらす可能性を秘めている。

次章では、この個人レベルの視点から、集団レベルの現象である「集団免疫動態」へと視野を広げ、特に単純な集団免疫閾値モデルの限界を超えた、より精緻な理解を探求していく。

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