ホルモン応答修飾とステロイド代謝 - レスベラトロールと内分泌系の相互作用
1. ステロイド代謝経路におけるレスベラトロールの作用点
レスベラトロールと内分泌系の関係は単なる「相互作用」を超え、ステロイド代謝の多層的調節と言える。その作用は個別の酵素阻害にとどまらず、ステロイド生合成・代謝ネットワーク全体のリモデリングを促進する。
1.1 ステロイド合成酵素の選択的調節
レスベラトロールはステロイド合成経路の複数の酵素を選択的に調節する:
- コレステロール側鎖切断酵素(CYP11A1): ステロイド合成の律速段階を触媒するこの酵素をレスベラトロールは濃度依存的に調節する。低濃度(1-5μM)では活性増強が見られる一方、高濃度(>25μM)では抑制作用が現れるという二相性を示す。この効果はStAR(steroidogenic acute regulatory protein)の発現調節とミトコンドリア膜流動性の修飾の両方を介して生じる。
- 3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(3β-HSD): プレグネノロン→プロゲステロン、DHEA→アンドロステンジオン変換を触媒するこの酵素に対し、レスベラトロールは組織特異的な調節を示す。副腎と精巣/卵巣でのアイソフォーム特異的効果が特徴的で、副腎での3β-HSD2活性は比較的保存される一方、生殖腺での3β-HSD1は感受性が高い。
- アロマターゼ(CYP19A1): テストステロン→エストラジオール変換を触媒するこの酵素は、レスベラトロールの主要標的の一つである。レスベラトロールは競合的阻害(Ki = 15-25μM)と転写抑制の両方を通じてアロマターゼ活性を減少させる。興味深いことに、この阻害は乳腺・脂肪組織で最も強く、卵巣では相対的に弱いという組織選択性を示す。
1.2 ステロイド代謝・不活化経路の修飾
合成だけでなく代謝・不活化経路も重要な調節点である:
- サルファトランスフェラーゼ(SULT): DHEA、エストロゲン、アンドロゲンの硫酸抱合を触媒するSULT1E1とSULT2A1に対し、レスベラトロールは活性調節と発現制御の両方を示す。これによりホルモンの生物学的利用能と半減期に影響を与える。
- UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT): ステロイドのグルクロン酸抱合を触媒するUGT2B7とUGT2B17に対し、レスベラトロールは選択的阻害作用を持つ。これはテストステロンとエストラジオールの不活化を遅延させ、標的組織での作用時間延長につながる可能性がある。
- 5α-還元酵素: テストステロン→ジヒドロテストステロン(DHT)変換を触媒するこの酵素ファミリー(特にSRD5A1とSRD5A2)に対し、レスベラトロールは阻害作用を示す。この効果は前立腺と肝臓で最も顕著で、テストステロン/DHT比の上昇をもたらす。
1.3 組織特異的代謝と局所ホルモン環境
レスベラトロールによるステロイド代謝修飾は組織によって大きく異なるパターンを示す:
- 脂肪組織: アロマターゼ阻害とエストロゲン受容体(ER)調節の複合効果により、脂肪組織のエストロゲン環境が修飾される。特に内臓脂肪でのアロマターゼ阻害が顕著で、これが代謝症候群関連のテストステロン低下への保護効果と関連する可能性がある。
- 骨格筋: 筋肉でのアンドロゲン感受性を増強し、テストステロンとDHEAの筋タンパク同化作用を増幅する。これはアンドロゲン受容体(AR)の発現増加と、GLUT4/mTOR/S6Kシグナルの調節を介して生じる。
- 肝臓: 肝臓はステロイド代謝の中心であり、レスベラトロールはここでのステロイド代謝酵素群(CYP3A4、CYP2C9、CYP1A2など)の発現と活性を包括的に修飾する。特に肝での硫酸化とグルクロン酸抱合の選択的抑制が、循環ステロイドの生物学的利用能に影響する。
2. 核内受容体と転写調節
レスベラトロールのホルモン作用の重要な部分は、ステロイド受容体を含む核内受容体ファミリーとの相互作用にある。
2.1 エストロゲン受容体の選択的調節
レスベラトロールはエストロゲン受容体(ER)サブタイプを選択的に調節する:
- ERαとERβの選択性: レスベラトロールはERβに対して選択的親和性を示し(Ki = 10μM前後)、ERα(Ki ≈ 100μM)よりも約10倍高い結合能を持つ。この選択性が組織特異的効果の一因となる。
- 選択的エストロゲン受容体調節因子(SERM)活性: レスベラトロールは単純な「植物性エストロゲン」ではなく、組織選択的な作用を持つSERMとして機能する。乳腺と子宮ではERα拮抗作用を示す一方、骨と脳ではアゴニスト様効果を示す複雑な作用特性を持つ。
- コアクチベーター/コリプレッサーリクルートメントの修飾: エストロゲン受容体の転写活性は、コアクチベーター(SRC-1、SRC-3など)とコリプレッサー(NCoR、SMRTなど)の相対的リクルートメントによって決定される。レスベラトロールはこのバランスを組織特異的に修飾し、ER応答遺伝子の選択的発現パターンを生み出す。
2.2 アンドロゲン受容体とテストステロン感受性
アンドロゲン受容体(AR)はレスベラトロールのもう一つの重要な標的である:
- AR発現と安定性の調節: レスベラトロールはAR遺伝子の発現とタンパク質安定性に組織特異的影響を与える。骨格筋と骨ではAR発現を増加させる一方、前立腺では発現を抑制または変化させないという選択性を示す。
- リガンド感受性の調節: アンドロゲン-AR結合自体への直接的影響は限定的だが、AR転写活性に必要な補因子(ARA70、ARA55など)の発現と活性はレスベラトロールにより顕著に修飾される。これによりARのリガンド感受性が調整される。
- 非ゲノム経路との相互作用: ARは核内での転写活性に加え、Src/Raf/ERK、PI3K/Akt、mTORなどの非ゲノム経路も活性化する。レスベラトロールはこれらの経路、特にSrc/ERK経路を選択的に抑制し、ARシグナリングの転写/非転写バランスを修飾する。
2.3 統合的核内受容体ネットワークの調節
レスベラトロールの内分泌作用を理解するには、個別の受容体ではなく、相互接続した核内受容体ネットワーク全体への影響を考慮する必要がある:
- PPARファミリーとの相互作用: PPARα、PPARγ、PPARδの活性調節を通じて、レスベラトロールはステロイドシグナルとエネルギー代謝の統合に影響する。特にPPARγのリン酸化状態の修飾と、PPARαの脱アセチル化促進が重要である。
- 核内受容体コアクチベーターの統合的調節: PGC-1α、SRC-1、p300/CBPなどの核内受容体コアクチベーターは複数の受容体間で共有される。レスベラトロールはSIRT1を介したPGC-1α脱アセチル化を促進し、エネルギーセンシングシグナルとステロイドシグナルの統合を修飾する。
- クロマチンリモデリング複合体の調節: ステロイド受容体の転写活性はSwi/SNF、WINAC、NuRDなどのクロマチンリモデリング複合体の活性に依存する。レスベラトロールはこれらの複合体のエピジェネティック修飾と活性を調節し、ステロイド応答性遺伝子のアクセシビリティに影響する。
3. 性ホルモン依存的生理機能への影響
レスベラトロールによる分子レベルのステロイド代謝・シグナル修飾は、様々な性ホルモン依存的生理機能に影響を与える。
3.1 生殖生理学への影響
レスベラトロールは男女両方の生殖機能に複雑な影響を与える:
- 卵巣機能と排卵: 卵巣顆粒膜細胞でのエストラジオール産生とプロゲステロン応答に二相性の効果を示す。低用量(1-5μM)では卵胞発達を支援する一方、高用量(>25μM)では一部の卵巣ステロイド合成を抑制し排卵に影響する可能性がある。
- 精子形成と精巣機能: 精巣でのテストステロン産生への影響は複雑で、用量・時間・代謝状態依存的である。高脂肪食による精巣機能低下に対しては保護効果を示すが、通常条件下では精子形成パラメータに対して微妙な二相性効果を持つ。
- 性腺外性ステロイド産生: 加齢に伴い性腺由来ステロイドが減少する一方、脂肪組織や副腎などでの性腺外ステロイド産生の相対的重要性が増加する。レスベラトロールはこれらの代替ステロイド源、特に副腎でのDHEA産生を支援し、加齢関連ホルモン低下に対する緩衝効果を示す。
3.2 骨格筋と骨代謝
骨格筋と骨は性ステロイドの主要標的組織であり、レスベラトロールはこれらの組織でのホルモン応答を修飾する:
- 筋タンパク同化シグナルの増強: レスベラトロールはテストステロンの筋タンパク同化作用を増強する。これはアンドロゲン受容体発現増加、mTORC1シグナル修飾、筋衛星細胞活性化、そしてミオスタチン発現抑制を通じて達成される。
- 骨密度と骨リモデリング: レスベラトロールは骨代謝に対するエストロゲンとアンドロゲンの作用を修飾する。特に骨芽細胞でのエストロゲン/アンドロゲン応答を増強し、破骨細胞でのRANKLシグナルを抑制することで、骨形成/吸収バランスを最適化する。
- 加齢関連筋減少症(サルコペニア)への保護: 加齢に伴うテストステロン低下とサルコペニアに対し、レスベラトロールは筋でのテストステロン感受性を高めることで部分的に保護効果を示す。これは筋AR発現維持、SIRT1活性化によるPGC-1α依存的ミトコンドリア機能強化、そして筋細胞でのインスリン/IGF-1シグナル最適化を介して生じる。
3.3 脂質代謝と体組成
性ステロイドは脂質代謝と体組成の重要な調節因子であり、レスベラトロールはこの関係を修飾する:
- 脂肪分布の性差調節: エストロゲンとテストステロンは脂肪分布の性差の主要決定因子である。レスベラトロールは脂肪組織でのエストロゲン/アンドロゲンバランスを修飾し、特に内臓脂肪でのアロマターゼ活性抑制を通じて、より健康的な脂肪分布を促進する可能性がある。
- 脂肪組織のベージュ化: レスベラトロールは白色脂肪組織のベージュ化(ミトコンドリア豊富な褐色様脂肪細胞への転換)を促進する。この効果は部分的にはテストステロン応答性の増強とエストロゲン/アンドロゲンバランスの修飾を介して達成される。
- SHBG産生と遊離ホルモン分画: 肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)産生はレスベラトロールにより修飾され、これが循環ステロイドの生物学的利用能に影響する。特に肝でのSHBG発現はHNF-4αとPPARγの活性バランスに依存し、レスベラトロールはこのバランスを調節する。
4. DHEAとレスベラトロールの相互作用
DHEAは単なる「前駆体」ではなく独自の生理作用を持つ重要なステロイドであり、レスベラトロールとの相互作用は特に注目に値する。
4.1 DHEA産生と代謝の調節
レスベラトロールはDHEA産生と代謝の複数段階に影響する:
- 副腎DHEA合成の調節: レスベラトロールはCYP17A1酵素(17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ)の活性と発現を修飾し、DHEA産生能に影響を与える。中高年層での効果が特に顕著で、加齢関連DHEA低下(アドレノポーズ)への緩衝作用を示す可能性がある。
- DHEA-S/DHEA比の調節: DHEA硫酸化(DHEA→DHEA-S)と脱硫酸化(DHEA-S→DHEA)のバランスはSULT2A1と硫酸加水分解酵素STS(steroid sulfatase)によって調節される。レスベラトロールはこれらの酵素活性を組織特異的に修飾し、DHEA-S/DHEA比と生物学的利用能に影響する。
- DHEA標的組織での代謝リモデリング: レスベラトロールはDHEAの組織特異的代謝を修飾する。脳ではDHEAからの神経ステロイド生成を促進し、筋肉ではアンドロゲンへの変換を最適化し、脂肪組織ではエストロゲンへの過剰変換を抑制するという組織選択的効果を示す。
4.2 DHEA-レスベラトロール相乗効果
レスベラトロールとDHEAは複数の生理過程で相乗的に作用する:
- ミトコンドリア機能強化: DHEAとレスベラトロールは共にミトコンドリア機能とエネルギー代謝を最適化するが、異なる経路を介する。DHEAは主にG6PDH阻害と解糖系/ペントースリン酸経路バランス調整を通じて作用する一方、レスベラトロールは主にSIRT1-PGC-1α経路を介する。両者の併用は相補的効果を示す。
- 神経保護と認知機能: DHEAとレスベラトロールはどちらも神経保護作用を持つが、作用機序が異なる。DHEAはGABAA受容体の非競合的調節、NMDA受容体の正調節、およびシグマ-1受容体活性化を通じて作用する一方、レスベラトロールは主にSIRT1経路と抗炎症作用を介する。両者の併用は神経保護スペクトルの拡大をもたらす。
- 炎症調節の相乗的効果: DHEAとレスベラトロールは異なる炎症経路を標的とする。DHEAは主にNFκB活性化の上流シグナルを抑制する一方、レスベラトロールはより広範な炎症シグナル(NFκB、AP-1、STAT3など)を調節する。両者の併用は炎症抑制の相乗効果を示す。
4.3 加齢関連ホルモン変化への統合的アプローチ
レスベラトロールとDHEAの相互作用は、加齢関連ホルモン変化への統合的対策の基盤となり得る:
- アドレノポーズとソマトポーズの交差点: 加齢に伴うDHEA低下(アドレノポーズ)と成長ホルモン/IGF-1低下(ソマトポーズ)は相互に関連する。レスベラトロールはDHEA応答性の増強とIGF-1シグナルの選択的修飾を通じて、この二重ホルモン低下の影響を緩和する可能性がある。
- DHEA-テストステロン-エストロゲン軸の再均衡: 加齢に伴い、DHEA→テストステロン→エストロゲン変換の効率と組織選択性が変化する。レスベラトロールはこの変換カスケードを組織特異的に調節し、より若年期に近いホルモンバランスの維持を支援する可能性がある。
- ホルモン-神経-免疫-代謝クロストークの最適化: DHEAは単なる性ステロイド前駆体ではなく、神経系、免疫系、代謝系の統合的調節因子である。レスベラトロールはこれらの系間クロストークの効率を高め、DHEAの多面的作用を増強する可能性がある。
5. 内分泌撹乱物質との相互作用
現代環境に遍在する内分泌撹乱物質(EDCs)の影響に対し、レスベラトロールは複雑な保護作用を示す。
5.1 内分泌撹乱物質の作用機序への干渉
レスベラトロールは複数の機序を通じてEDCsの内分泌撹乱作用を軽減する:
- エストロゲン様EDCsへの拮抗: ビスフェノールA(BPA)、フタル酸エステル、ノニルフェノールなどのエストロゲン様EDCsに対し、レスベラトロールはERα結合とシグナル伝達を競合的に阻害する。特にERαを介した乳腺と子宮への作用に対する保護効果が顕著である。
- AhR経路の調節: ダイオキシン類、多環芳香族炭化水素(PAHs)などのAhR(aryl hydrocarbon receptor)活性化物質に対し、レスベラトロールは部分的拮抗作用を示す。これによりCYP1A1/1B1誘導と関連する酸化ストレスが軽減される。
- ステロイド代謝酵素保護: 多くのEDCsはステロイド代謝酵素(特に5α-還元酵素、アロマターゼ、3β-HSD)の活性を攪乱する。レスベラトロールはこれらの酵素の発現と活性の恒常性維持を支援し、EDCs曝露による代謝不均衡への緩衝作用を示す。
5.2 生殖発達と内分泌健康への保護効果
発達期のEDCs曝露は特に懸念される問題であり、レスベラトロールは複数の保護機構を示す:
- 生殖器発達への保護: 発達期のEDCs曝露は生殖器形成と機能に永続的影響を与える可能性がある。動物実験では、レスベラトロールが胎児期・新生児期のEDCs曝露による精巣下降障害、精子形成異常、卵胞発達障害などへの保護効果を示す。
- 精巣機能の保全: 成熟精巣においても、レスベラトロールはEDCsによるライディッヒ細胞機能障害とテストステロン産生低下に対して保護効果を持つ。これはStAR、CYP11A1、3β-HSD発現の維持と、ミトコンドリア機能保護を介して達成される。
- 胎盤-胎児バリア機能: 妊娠中のレスベラトロール摂取は、P-糖タンパク質などの胎盤排出トランスポーターの機能を最適化し、EDCsの胎児曝露を軽減する可能性がある。
5.3 肝代謝と解毒機能強化
肝臓はEDCs代謝の主要部位であり、レスベラトロールはその機能を最適化する:
- 第一相・第二相代謝酵素の調節: レスベラトロールはNrf2経路活性化を通じて、解毒酵素(CYP1A1、CYP1A2、CYP3A4、UGT、GSTなど)の発現を調節し、EDCs代謝と排泄を促進する。
- 胆汁排泄の促進: レスベラトロールはEDCs抱合体の胆汁排泄に関与するトランスポーター(特にMRP2、BCRP)の発現と機能を強化し、体外排出を促進する。
- 肝再生能力の増強: 高用量EDCs曝露による肝障害に対し、レスベラトロールは肝細胞再生と修復を促進する。これはWnt/β-カテニン経路、SIRT1-PGC-1α経路、およびオートファジー調節を介して達成される。
6. 革新的視点:シグナル統合モデル
ホルモン系とレスベラトロールの相互作用の本質を理解するためには、従来の「単一経路」モデルを超え、「シグナル統合」という枠組みで捉え直す必要がある。
6.1 内分泌-代謝-神経免疫統合器としてのレスベラトロール
レスベラトロールは単なるホルモン調節因子ではなく、複数の生理系間の情報統合を促進する「システム調整因子」と見なすべきである:
- エネルギー感知-ホルモンシグナル統合: レスベラトロールの作用の中核には、エネルギー状態感知系(AMPK、SIRT1、mTOR)とホルモンシグナル系の統合がある。これにより、エネルギー状態とホルモン応答性の間の連携が最適化される。具体的には、エネルギー欠乏状態でテストステロンの同化作用が選択的に維持される一方、エネルギー過剰状態では非同化経路が抑制されるといった精密調整が可能になる。
- 酸化還元-ホルモン相互調節: 細胞の酸化還元状態はステロイド受容体機能の重要な調節因子である。レスベラトロールは細胞内酸化還元状態を最適化し、ステロイド受容体の折りたたみ、核移行、DNAとの相互作用、コアクチベーターリクルートメントなどを効率化する。これはNrf2-GSH軸とステロイド応答経路の統合を通じて達成される。
- 概日リズム-ホルモンシグナル同期: ホルモン分泌と応答性の多くは概日リズムに従う。レスベラトロールはSIRT1を介してBMAL1/CLOCKなど時計遺伝子の発現と活性を調節し、ホルモンシグナルと生体リズムの同期を最適化する。これにより、テストステロンとコルチゾールの日内変動パターンが強化され、睡眠-覚醒サイクルとエネルギー代謝の協調が促進される。
6.2 ホルモン応答性の文脈依存的調整
レスベラトロールの内分泌作用の特徴は、単なる「増強」や「抑制」ではなく、生理的文脈に応じた精密な調整にある:
- ホルモン応答閾値の再校正: レスベラトロールはステロイドホルモン応答の閾値を組織特異的に再調整する。例えば、骨と筋肉でのテストステロン応答閾値を低下させる(感受性増加)一方、前立腺などの組織では応答閾値を上昇させる(感受性減少)。これにより、同じホルモンレベルでもより生理的に最適な応答パターンが実現する。
- シグナル持続時間の調節: ホルモン作用の時間的特性(一過性vs持続性、早期vs後期応答)はその生理的効果を決定する重要な要素である。レスベラトロールはステロイド受容体の核内滞在時間、転写複合体の安定性、標的遺伝子のエピジェネティック状態を修飾することで、シグナルの時間的プロファイルを調整する。
- 代償性応答の抑制: 持続的ホルモン刺激は多くの場合、受容体のダウンレギュレーションや脱感作を引き起こす。レスベラトロールはこの代償性反応を緩和し、ホルモン応答の持続性を維持する。これは部分的にはエンドサイトーシス経路の調節と受容体リサイクリングの最適化を通じて達成される。
6.3 エンドクラインから「メタクライン」へ
レスベラトロールの作用理解のための革新的概念として「メタクラインシグナリング」を提案する:
- メタクラインの概念: 従来のシグナル様式(オートクライン、パラクライン、エンドクライン)に加え、「メタクライン」という新たな概念を導入する。これは特定のシグナル経路そのものではなく、複数のシグナル系間の相互作用と情報統合を修飾するシグナル様式である。レスベラトロールはこのメタクラインモデュレーターとして、ホルモン経路と他の生理経路の間の「翻訳効率」と「相互理解」を最適化する。
- シグナル特異性の文脈依存的調整: レスベラトロールは単一の分子経路ではなく、シグナル統合の「文法」そのものを修飾する。例えば、テストステロンシグナルを筋肉では同化経路へ、脂肪組織では脂肪分解経路へ、前立腺では維持/修復経路へと選択的に「翻訳」する能力を強化する。
- ホメオダイナミクスの促進: 生体は単なる恒常性(ホメオスタシス)ではなく、変化する環境に適応するための動的平衡(ホメオダイナミクス)を維持する必要がある。レスベラトロールはホルモン系のこの動的適応能力を強化し、内的・外的環境変化に対する応答の柔軟性と精度を高める。
結論:内分泌統合の新たなパラダイムに向けて
レスベラトロールとホルモン系の相互作用は、単なる「ホルモン調節剤」という枠組みを超え、生体の内分泌-代謝-免疫-神経系の統合的適応を促進する洗練されたシステムである。
この理解は内分泌健康の新たなパラダイムを示唆する。従来の「単一ホルモン最適化」アプローチではなく、「内分泌応答ネットワークの統合的調節」という視点が重要となる。レスベラトロールはこのネットワーク調節の一例であり、他の植物由来化合物との組み合わせや生活習慣因子との相乗効果を通じて、より包括的な内分泌健康戦略の基盤となり得る。
究極的には、レスベラトロールと内分泌系の研究は、単なる「抗加齢」を超え、環境変化への適応能力を高め、生理的回復力と機能的予備能を最大化するという、より洗練された健康概念への道を開くものである。
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